歯に衣着せぬ飾らない言葉で文章を綴り、テレビでコメンテーターとしても活躍している作家の室井佑月さん。批判や炎上を恐れず、自分の意見をしっかりと伝えるというスタンスは、なかなかできるものではありません。室井さんがそのスタンスを貫けるのはなぜなのか? そこには、室井さんならではの、人と真摯に向き合いたいという思いがありました。
人の意見を気にしすぎるのは、
本当の気遣いではないのかも
自分の意見や思いを人に伝えるのは、想像以上に難しい。もしも自分と反する意見の人がいたら、誰も同意してくれなかったら…、そんなことを考えて、躊躇した経験がある人、意外と多いのではないだろうか。
「確かに、人にどう思われるか、こんなことを言ったら嫌われてしまうかな、と他人が自分をどう評価するかってことだけを気にしてしまうと、意見や思いは言いにくいもの。これは言わないほうがいいだろう、これはやめておこうと、結局自分を出せなくなってしまう。でも、それって、自分が人からよく見える評価だけが気になって躊躇しているともいえますよね。私は、自分がされて嫌なことはしない、というルールは決めています。あとは、マイノリティ(少数派)の意見を大事にしたい。それ以外は思ったことを言葉に出すって決めています。特に、コメンテーターの仕事をしていて、人の意見を気にして躊躇していたのでは、薄っぺらな意見になってしまう。自分の身を守るよりも、偉い人たちの意見に迎合するのではなく、マイノリティの声もしっかり聞いたうえで、自分なりの意見を言うようにしています」というのは、作家であり、コメンテーターとしても活躍中の室井佑月さんだ。
歯に衣着せぬ飾らない言葉の意見には共感も多い。
「といっても、批判や炎上もぶっちゃけ多いですよ(笑)。でも、自分自身はあまり気にしていません。恐れたり、ためらったりしたら、何も言えなくなってしまうでしょ。それでは仕事にならないし、物書きなのに、人の顔色次第で発言を変えるのは違うと思うんです。
私が大事にしているのは、誰に対しても同じでいること。人に対しての最低限のマナーとして、スタンスを変えないことはとても大事だと思うんですね。例えば、偉い人に何か言われたら、あ、そうですか、と意見を変えてしまうのって、私はとても嫌だなと感じます。だから、私はどんな人を前にしても、意見や思いは変えません。
でも例えば、私の言葉で傷ついた人がいたり、間違ったことを言ってしまったら、すぐに素直に謝ります。これだけは昔から決めています。喫煙のマナーと同じです。吸っていい場所を守り、周囲に苦手な人がいたら、やめる。シンプルな考え方です」
でも、仕事とはいえ、恐れず自分の意見を言葉にするのは、難しいものだ。周囲の意見を察して、なんとなく同調する『忖度』する文化が根付いている日本では、容易にできることではない。
「確かに、そういう意図ではなかったんだけどな、と思うこともあります。また、室井さんは強いから、と思っている人も多い。いえいえ、実際の私は皆さんが思うほど強くはないんじゃないかな。でも、自分の気持ちとは違う意見に安易に同調するって、逆に失礼なことだと思うんです。有名な政治家も一般の人も、自分以外の人間は私にとっては全部同じ。正直に生きるのは面倒なことも多いけど、わかってくれる人はわかってくれる。それでいいかなと思っていますね」
さまざまな仕事を経験して、
自分のダメなところも含めて認める気持ちに気付いた
室井さんが、今のように恐れず、言葉を伝えるようになったのには、過去のさまざまな仕事も影響しているという。
「子供のころから、たくさんの友達と一緒に遊ぶ、というタイプではなかったですね。いじめられっ子というわけでもなかった。だからってテレビなどでコメントしている姿を見て、めちゃくちゃ強い子供時代を送ったのではと思う人もいるようですが、まったくそんなことはありませんでした。でも、多くの人とつるむよりもひとりでいることが意外と好きだった。ひとりの時間があったからこそ、いろんなことを考えたし、客観的にものを見る力を身につけられた気もしますね」
どんなに近い人でも、自分ではないからその人が考えていることはわからない。大事なのは、他者の意見よりも自分がどうしたいか、ということを比較的幼い時期から理解していたという。
世間の尺度では、多くの人に愛されたほうがいい、友達は多いほうが人徳、と言われがちだが、その視点が逆に個の考え方を隠して、忖度する人間関係ばかりつくっているのではないかと、室井さんは言う。
「孤独やひとりを恐れてしまいがちだけど、基本はそこにあるとわかったほうが実は生きていくのは楽」と言う。コロナ禍でつながるのが難しい時期だからこそ、人と群れない自分を感じてみるのもいいのかもしれない。
「雑誌の若い女性たちの悩み相談とか読むと、人と違う自分が嫌とか、人と違うことがコンプレックスみたいに感じている人がとても多い。でも、人と違うことは武器になるってことを私はホステス時代に学びました。どっちつかずのスタンスよりも極端な何かを持っていたり、ギャップがある人、ちょっとバランスが悪い何かがある人のほうが、人に覚えてもらえたり、魅力的に見えることを知りました。
気遣いや気配りというと他者への気持ちばかりに向いてしまいがちですが、まずは個を大事に、自分の面白さに気付くこと。これが、その先にある他者への繋がりをつくっていくのだと思うのです」