昨年、スペインの王立美術館として開館200周年を迎えたプラド美術館を、初めて映像化した作品。ティツィアーノの「栄光」、ルーベンスの「三美神」、ベラスケスの「ラス・メニーナス」など、大画面に次々と現れる名画、タイトル通りの驚異のコレクションに改めて驚かされつつ、名優ジェレミー・アイアンズによって語られるその歴史は、ドキュメンタリーながら一編の物語を聞いているよう。
画面に次々と映る名画と豪華絢爛な建築も見どころというこの作品について、今回は映画ライター渥美志保さんにたっぷりと語っていただきました!(編集部)
世界屈指のプラド美術館が語りかける、歴史の物語
世界の三大美術館、ってどこなのか定説はないようですが、その候補として数えられることも多いスペイン、マドリードにあるプラド美術館。この作品は、昨年、開設200周年を迎えたその内部に初めてカメラが入ったドキュメンタリー作品です。
GINGER世代の女性にとって、スペインという国のイメージは、「レアル・マドリード」や「パエリア」、そして「闘牛」など、「ヨーロッパの端っこにあるラテン系の国」というイメージでしょうか。
でも実は、プラド美術館ができる以前、15~17世紀くらいのスペイン帝国は、ヨーロッパのど真ん中に君臨する最強国。大航海時代を経て財を蓄え、ヨーロッパ大陸から大西洋に突き出したイベリア半島だけでなく、現在のドイツ、北イタリア、フランス西北部からベルギー、オランダまでに勢力を伸ばし、その黄金時代を築いていました。
ドキュメンタリーというと、美術館で働く人や、美術研究科の分析などによって構成されているかのように思えますが、この作品はその辺りはちょっと異なります。冒頭、スペイン黄金時代でも最強の君主カルロス1世の晩年が名優ジェレミー・アイアンズによって語られ、映画は観客をこの美術館をめぐる「物語」のなかへといざないます。
スペイン系の文化には理屈を超えた迷信や神秘を「当然あるもの」とする感覚がそこここにあり、それが独特の魔術的な「物語世界」を作っていると感じることが多いのですが、この映画はまさにそういうイメージ。
それはまた、そうした独特の嗜好性で集められた絵画にも貫かれています。
宮廷画家だったティツィアーノやベラスケス、ヨーロッパ貴族の間で一大ブームを巻き起こしたルーベンスも素晴らしいですが、帝国が支配した地域の画家たち、画面に無数の変な生き物を描いたヒエロニムス・ボスや、人の体や手足をスラーっと長く強調し描いたエル・グレコ、『我が子を喰うサトゥルヌス』を始めとした「黒い絵」のゴヤなど、個性的な作品だらけ。
さらにそうした作品に、実際では近づけない距離まで近づいてくれるのも、映画の魅力。例えば静物画の中に描かれた金属の食器、そこに写り込んでいる作者の姿・・・なんて、たぶん実物では見逃してしまいますよね。贅を尽くした美術館の美しい天井画なども、もちろんそうしたもののひとつです。
コロナ禍で、海外の美術館なんていつ行けるようになるのやら・・・という昨今、ぜひ映画でプラド美術館を味わってくださいませ。
『プラド美術館 驚異のコレクション』
監督・脚本/ヴァレリア・パリシ
脚本/サビーナ・フェディーリ
ナビゲーター/ジェレミー・アイアンズ
企画/ディディ・ニョッキ
www.prado-museum.com
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※7月24日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー