南麻布の架空のバー「Bar D’Amore(バール ディアモーレ)」を舞台に、ママを務めるジョバンナ洋子女史のお叱りトークと、ワインのリコメンが評判のコラム「ま、一杯飲んでベッラ ヴィータよ」。第11夜はやんごとなき事情を抱えたアラサー女子がご来店。今宵はどんなネタが展開されるやら。
【第十一夜】自分に正直に生きる切なさを知る
しばらくイタリアに里帰りをしていたから、こっちのことはよくわかんないけど、まあ、あっちはやたら暖かかったわ。寒さの心配して真冬の様相で出かけたら、暑くて困ったわよ。今回はハードな出張でね、ここ10年で最速で走らされて、もう心臓発作一歩手前。帰国して数日経ってんだけど、まだお疲れモードなの。アッロ〜ラ、ゆるっと始めるとするかしら。
「こんばんは。もう開いてますか?」
ああ、どうぞ。店は開いてるけど、私的な準備はまだなんだけど。
「でもカウンターの端で静かにしてるんで、準備ができるまで待ってていいですか」
仕方ないわね。なにか切羽詰まってるのかしら?
「ウウッ(涙)、ずっと付かず離れずの友達だった彼と、ここ1年付き合ってたんです。昨日は一周年記念日だね、なんて話してたら、そうしたら・・・・・・彼・・・・・・ウウッ」
やだわ。まだ飲んでもいないのに、泣きが入るなんて。
男女の愛より人類愛!?
「とにかくママに聞いて欲しくて。何かって言うと、何かって言うと、彼・・・・・・女より男への愛のほうが深いと・・・・・・ウウッ」
なるほど・・・・・・。それは泣きたいわね。他の女に取られるより消化するのが難しい話ね。
「友達時代から男友達を大事にしていて、そういうところも好感が持てると思っていたんですが、まさか、そういうこととは・・・・・・」
ま、とりあえず一杯飲みなさいよ。イタリアから買ってきたワインでいいわよね?
「ありがとうございます。ショックを通り越して腑抜けています」
こういうところにも多様性の時代の波がね。仕方ないんじゃない?彼の本質を理解してあげるほうが大事でしょ。
「それも十分わかってるんです・・・・・・ウウッ」
私はそういう経験はないけれど、女友達よりむしろ心通じ合う、そちら方面のお友達はいるわよ。今はね、心を解き放って、自分らしく生きる時代なの。
「解き放ちすぎです・・・・・・」
人を愛するって喜びも大きいけれど、大変よね。彼とまた友達に戻るには、まだしばらく時間が掛かるわね。
「はい・・・・・・、ウウッ」
自分がこうありたいと思っても、それをストレートに表現するのは、それほど簡単ではないわ。どんどんそういうことを受け入れてくれる社会にはなってきているけれど、周りの環境もあるし。
「そうですよね、最近ファッションでもジェンダーレスとかユニセックスとか、よく聞きますし」
そうそう、女性が男性の服を着たり、またその逆も然り。自由を謳歌していい世の中よ。
「本当に垣根がなくなりつつあるんですね」
男らしく、女らしく問題
私ね、子供の頃、母親が「あなたは見た目がボーイッシュだから、長い髪も女の子然とした服も似合わないから」って、ずっとショートカットにされて、寒色系の色の服ばかり着せられていたのよ。
「今も気質は男前ですよね(笑)」
あら、そうかしら⁉︎ まあ、見た目と裏腹に女の子的な弱い自分を克服したくて強くなろうとした結果かしらね。でも心の中ではバレリーナみたいな、めちゃくちゃラブリーな服が着たくて仕方がなかったのよ。だから大人になって蓄積反動で、時々すごいフェミニンなものを買っちゃうのよ。
「私はそういう悩みはあまりなくて、あんまり自分を深めず普通に生きてきちゃったのかな。ママはやっぱり子供の頃から感受性も強かったんですね」
あの頃、今みたいな時代だったら、似合わないって言われても、強引にフリフリの服、着てたに違いないわ。男は泣くな、女は出しゃばるな、みたいなことは平成までの表現ね。
「そうですよね、彼も今の時代だから、素直に自分のことを表現できたんでしょうね」
辛いかもしれないけれど、勇気を出して伝えてくれたのも彼の愛よ。去年ヒットした『君の名前で僕を呼んで』っていう、男同士の切ない愛を描いたイタリア映画を観てみるといいわ。偏見も悲しさもなくなって、主役のティモシー・シャラメのあまりの美しさも相まって、尊い気持ちにさえなると思うわ。
「その映画、まだ観ていないです。今晩、ネットフリックスで探してみます」
来週あたり、またいらっしゃい。感想も聞かせて。頑張るのよ!
強さをたたえて、私らしく本当のことを突き詰める時代になるということは、自分自身の内面も直視する必要にも迫られるのよね。心を解放して、軽やかに生きるには、嘘偽りを排除しなくちゃならないわ。それだけ本質が問われるってことね。
そういう話でもう一本おすすめの映画があるの。『シシリアン・ゴースト・ストーリー』っていう、これも当然イタリア映画。シチリアで実際に起きた誘拐事件がもとにストーリーが展開していくんだけど、登場する女の子の強い眼差しが印象的だったわ。
【今宵の一杯】
“ヴィーニャ・センツァ・ノーメ” モスカート・ダスティ
今回紹介するのは、食前酒におすすめのデザートワインです。甘口の微発泡ながら、ぶどう本来の味わいを生かした上品で飲み口のいい一本。
酸味が強く安価で販売されがちだった、ピエモンテ州ロッケッタ・ターナロの丘で作られるバルベラワインを、畑の改良やバリック熟成の導入などで改革し、現在の地位へ導いたのが、非凡な才能を持つブライダというワイナリーの創業者ジャコモ・ボローニャ氏です。現在はファミリーによって、ワイン作りが継承されています。
「“ヴィーニャ・センツァ・ノーメ” モスカート・ダスティ」のぶどう品種はモスカートビアンコ。輝かしい麦わら色で、香りはとてもフレッシュで、フレッシュな果実、オレンジの花、バラなど多様なアロマを放ちます。
フルーツやクッキーなどと相性が抜群です。
“Vigna Senza Nome” Moscato d’Asti DOCG
ピエモンテ州
モスカートビアンコ100%
750ml ¥2,500(参考小売価格)
フードライナー
078-858-2043