それぞれの世界観でファッションの素晴らしさを伝えてくれるハイブランド。おしゃれが好きなひとはならば、その背景も含めて俯瞰で注目すると見えてくる物語があることを知ってほしい。今回は、そんな新しい視点でファッションを知れるお話を。【連載「青木貴子のラグジュアリー案内」】
好きなブランドのDNAを深く理解する


占星術の世界でしばしば話題にのぼる「惑星直列」。これは太陽系の複数の惑星が地球から見てほぼ同じ方角に並んで見える現象です。広い宇宙で繰り広げられる偶発的な天空ショーはロマンティックでもあり引力などの関係で地上にも大きな影響があるかもということで人々の関心が集まります。何億年に一度!という触れ込みで、そのとき何かが起こるのでは!?と注目を集めますが、実際は何年かに一回は起こっているのだそう。
しかし1999年にとりわけ注目を集めた、惑星が十字状に並ぶ「グランドクロス」は、「惑星直列」(何個の惑星が絡むかによって頻度が変わる)とは発生頻度が格段に変わり、何百年に1回単位でしか発生しない現象なのだそう。前回が1999年でしたから私たちが生きている間ではもう起こらないということになりますね。
壮大な星の話から始まりましたが、2026年コレクション・ファッションの世界でこの「グランドクロス」的な極めて稀でセンセーショナルな現象が起こったのです。なんと主要メゾンのクリエイティブ・ディレクターが一斉に交代! その数なんと15ブランド以上!! これは「グランドクロス」どころか「ファッション・ビッグバン」とまで表されているくらいの大改革。ここまでデザイナーの交代劇が重なったことは記憶にありません。
刷新となった代表的なブランドを挙げると、「シャネル」のクリエイティブ ディレクターに就任したマチュー・ブレイジーはボッテガ・ヴェネタからの移籍。「ディオール」のジョナサン・アンダーソンはロエベから、「グッチ」のデムナはバレンシアガから、「バレンシアガ」のピエールパオロ・ピッチョーリはヴァレンティノから、「フェンディ」のマリア・グラツィア・キウリはディオールから、「ロエベ」のジャック・マッコロー&ラザロ・ヘルナンデスはプロエンザ スクーラーからのそれぞれ移籍。
なんだか椅子取りゲームみたいですが、ぐるっとメンツが移動しました。ビッグメゾン間での移動組だけでなく「メゾン マルジェラ」のグレン・マーティンス(ディーゼルなどを手掛けている)、「セリーヌ」のマイケル・ライダー(フィービー時代にデザインディレクターとしてセリーヌに在籍後、ポロ ラルフローレンのクリエイティブ・ディレクターを務めた)、「ボッテガ・ヴェネタ」のルイーズ・トロッター(ラコステやカルヴェンにて活躍していた)、「ジバンシィ」のサラ・バートン、「ジルサンダー」のシモーネ・ベロッティなどなど。ここ1年で新クリエイティブ・ディレクターが就任したブランドは多く、まさに惑星大移動の様相となりました。
どのブランドも新しいディレクターを迎えてからのコレクションはとっても魅力的で華やか! 気持ちが盛り上がるワクワク感があります。しかしながら華やかさとはうらはらに、実はなんとこの交代劇の根底には世界的な経済の不透明さが影響しているといわれています。つまりは近年のハイブランドの売り上げ低迷を打破するために計画的に刷新されたという話も。“風が吹けば桶屋が儲かる”もとい“桶屋が儲かるためには風を吹かそう!”といったことのようです。さすが大きな桶屋はやることがビッグです。
ファッションと世相はいつも表裏一体。トレンドのファッションを分析すると世の流れが見えるといいますが、なるほどそんな理由もあったのかと思いました。いっぺんに更地になったようなレベルの刷新、相当深刻なレベルだったのかな?なんて邪推もしてしまいます。
ま、そんなちょっと世知辛そうな理由は知識として知っておけば良く、この魅惑的な惑星移動天体ショーを愉しまない手はありません。
新天地に降り立った彼らから繰り出される新しいクリエーションはかなーり魅惑的。皆ブランドストーリーの解釈がとっても面白いのです。アーカイブのデザインにインスパイアされた服を再解釈して発表したり、初代デザイナーが好んで使っていた素材をもとにモダンなファブリックを再開発したり。アプローチはそれぞれですがどのデザイナーもこれまでにないアトラクティブなプロダクトを発表しています。クリエイションには一つひとつにかなりしっかりと意味が込められているものが多いので、それらを紐解いていくと好きなブランドのDNAを深く理解出来るいい機会になりそうです。
これまでなんとなく漠然とこのブランドが好きだなぁなんて思っていたひとは、そのブランドの真髄を知ることが出来る好機、本当の推しブランドが見つけられるかもしれません。興味を持って各メゾンの新コレクションをチェックしてみましょう。

