人生100年時代の今、美容や健康、ウエルネスはもちろん「スキンロンジェビティ(肌の健康寿命)」への注目が高まっています。そのなかで、私たちが求める“美しさ”のあり方は大きな転換期中。美しく健やかに年齢を重ねていくとはどういうことなのか——。その本質を探るべく、湘南美容クリニックで皮膚科全体統括を務める医師・西川礼華先生がナビゲーターとなり、美容のプロフェッショナルたちと美の未来を語り合う新連載「Beauty Intelligence Lab:美を科学する スキンロンジェビティ・サミット」がスタート。
初回ゲストはビューティ・ライフスタイルデザイナー・藤原美智子さん

第1回のゲストにお迎えしたのは、日本のヘアメイク業界の最前線を走り、ヘアメイクアップアーテイストとして女性たちの美意識に刺激を与え続け、現在はビューティ・ライフスタイルデザイナーとして活動の幅を広げていらっしゃる藤原美智子さん。10代の頃から雑誌の誌面で藤原さんの活躍に魅了されてきたという西川先生が、情報過多な時代において自分らしい美しさを育むためのヒントを伺いました。

《This time's guest》
藤原美智子(ふじわら・みちこ)
ビューティ・ライフスタイルデザイナー
多くの雑誌や広告撮影のヘアメイクで活躍後、2022年に引退。現在は、執筆、化粧品関連のアドバイザー、講演、TV出演などで幅広く活躍。食や健康、ファッション、ライフスタイル、内面の磨き方などを 提案している。『LIFE IS BEAUTY~美しく幸せに生きるための逆算思考』(集英社)、『新しい口紅は寝る前に試す』(講談社)、『美の宿るところ』(幻冬舎)ほか、多数の著書がある。2017年から、ライフスタイル全般から美しさを提案するブランド「MICHIKO.LIFE」のプロデューサーを務める。2026年10月23日よりライフスタイルを扱ったYouTubeチャンネルを開設予定。

西川礼華(にしかわあやか)
湘南美容クリニック 皮膚科全体統括・医師
横浜市立大学医学部医学科卒業。2015年に湘南美容クリニックに入職。2018年より湘南美容グループ皮膚科全体統括に就任。現在は、SBCメディカルグループ全体において、美容皮膚科分野の治療開発や、医師・看護師への技術教育、安全管理などを幅広く担っている。臨床症例の解析を通じて、エビデンスに基づく医療の推進にも注力しており、国内外での学会発表や論文執筆など、学術活動にも積極的に取り組む。これらの実績が評価され、2023年にはSBC東京医療大学の客員教授に就任。
「近い鏡」に囚われていませんか?美容のゴールは‟生き生きと輝くこと”
「まだ学生だった頃、美容室で手にするファッション誌や美容誌の巻頭には、いつも藤原さんの特集がありました。先生が手がける洗練されたメイクや、女性が内側から放つ輝きに魅了され、美への興味の原点にもなっていたんです」
そう憧れを口にする西川先生。そんな西川先生が、美容皮膚科の現場で日々多くの女性の肌悩みに寄り添うなかで、近年感じていたのがSNSの普及に伴うニーズの変化。「このシミを消したい」「このシワを無くしたい」と、極めてピンポイントな相談が増えている現状に、ある種の危機感を抱いていたと言います。
その違和感に対し、藤原さんはかつて雑誌連載で自ら発信していた「近い鏡、遠い鏡」という考え方を教えてくれました。

「メイクをするとき、手元にある『近い鏡』でばかり見ていると、まつ毛が長いか、眉の形が整っているかという細部にしか目がいかなくなってしまいます。一歩引いた『遠い鏡』で見なければ、その人の輪郭や個性、佇まいの美しさは捉えられません。大人になるにつれて、顔全体はもちろんファッションを含めた全身、さらには人と関わっているときの自分まで、引いて見られるようになるのが成熟ということ。
ここ最近の美容トレンドを見ていると、『肌がもう少し白ければ』『まつ毛さえ長ければ』と近視眼的になりすぎていることを危惧しています。だって、寄ってばかり見ていると、『ここがまだ足りない』『私はまだダメだ』と、どんどん自分に自信を失ってしまうから。美容の本来の目的はその人自身が生き生きと輝くことにあるはずなのに、これでは本末転倒になってしまいますよね」(藤原さん)
この言葉に、深く頷く西川先生。
「まさに美容医療の現場でも同じことが起きています。間近で見つめて『まだシワがある』とピンポイントで自分の顔の一部を見てしまうと、施術を重ねても本当の意味で満たされません。私たち医師側も、パーツの悩みに応えるだけでなく、その方のお顔全体や雰囲気を捉える『遠い鏡』の視点を持って寄り添わなければ、人を幸せにする美容にはならないと改めて実感します」(西川先生)
溢れる情報に翻弄されないために「形容詞」で理想の美しさを言語化
SNSを開けば「これをやれば若返る」「神コスメ」「たった○回で変わる」といった刺激的な言葉が溢れ、あらゆる美容情報に誰もがアクセスできる時代。選択肢が多すぎるからこそ、「誰かが良いと言っていたから」「流行っているから」と飛びつき、情報に振り回されてしまう人は少なくありません。
藤原さんは、「情報に翻弄される側ではなく、使いこなす側に回るためには大人の知性が必要」と語ります。
「トレンドを取り入れたいと思うのは自然なことです。でも大人に必要なのは、自分の顔立ちや性格を理解したうえで『これは私には合わない』『今の私には必要ない』と見極める軸。きちんと自分で選択することがより一層重要な時代です。
私はこれまで読者の方の変身企画も担当してきました。そのとき、ただ『綺麗にしてください』と言われても作る側としてはイメージが湧かないんですよね。だから『どうなりたいですか?』と聞きます。『かっこいい』なのか、『可愛い』なのか。簡単な答えでいいんです。このとき大切なのは『シミをなくしたい』といった名詞ではなく、『ふんわりした肌になりたい』『イタリアのマダムのように自信に満ちた肌になりたい』『雪国を思わせるような肌』といった形容詞で表現してもらうこと。
形容詞で表現しようと立ち止まって考えることこそが、自分自身の美しさと向き合うスタート。人は自分の中に全くない要素を『こうなりたい』とは決して言わないもの。少しでも自分の中に眠っている種があるからこそ、その言葉が出てくるんですよ。そういったヒントをもらえるとファッションもメイクもあっという間です。そうやって導いて上げることが、美を作る側の責任だと思うんです。」(藤原さん)

西川先生も、美容医療でのカウンセリングに照らし合わせてその重要性を噛み締めます。
「『綺麗になりたい』という一言の奥にあるニュアンスを、お客さまご自身の言葉(形容詞)で表現していただくこと。ときには私たち医師が形容詞を引き出してあげることも必要でしょう。そして単なる医学的知識にとどまらず、言葉のニュアンスを汲み取る感性や美のセンスを磨くこと。双方が同じ景色を見て初めて、流行に流されない『その人だけの美しさ』が仕上がるのだと気づかされました」(西川先生)
スキンロンジェビティの真髄。心身の「バランス」で肌の健康寿命を育む
美容業界や医療の世界で今、グローバルな潮流として熱い視線を集めているのが「スキンロンジェビティ(Skin Longevity=肌の健康寿命)」という概念です。
これまでの美容といえば、シワやシミといった加齢の兆候を敵とみなし、時間を巻き戻したり止めたりしようとする“アンチエイジング”が主流でした。しかし、年齢を重ねることは本来ごく自然なこと。老化を否定して抗い続けるのではなく、人生100年時代に健やかに生きるために心身をケアするのと同じように「細胞本来の機能を最適化し、肌を長く強く健やかに保ち続ける」こと——。年齢よりも若く見られようとするのではなく、その年代ならではの生き生きとした美しさを引き出すポジティブで持続可能なアプローチこそが、スキンロンジェビティの根幹です。

このスキンロンジェビティの観点からも、「見た目さえきれいになればすべて解決する」という偏りは本質的ではないと西川先生は指摘します。近年の美容医療がスキンケアや施術にとどまらず、食事、運動、睡眠、姿勢といったホリスティックな領域へと広がっているのはごく自然な流れなのです。
「肌の美しさにも、色、キメ、質感、ハリ、潤いなどさまざまな要素があります。何か一つの項目だけ100点を目指してほかを疎かにしても、決して調和のとれた美しい肌にはなりません。全体を健やかなベースに整えつつ、その人の長所を引き出し、弱点を少し補う。肌も体も、トータルでの“バランス”が何より重要です。
さらに言えば、肌は全身の健康状態やライフスタイルを映し出す鏡。スキンケアやクリニックでの施術といった外側のケアだけでなく、食事、運動、睡眠、姿勢といったホリスティック(包括的)なアプローチで全体の土台を整える『バランス』が何より大切なのです」(西川先生)

この「バランスこそがすべて」という西川先生の言葉に、藤原さんも自身の試行錯誤を振り返りながら深く頷きます。
「過去にマクロビオティックに夢中になって、体に良いと言われる玄米や昆布ばかりを過剰に摂取していた時期がありました。でもある時検査をしたら、かえってアレルギー反応が出そうになるほど数値が上がっていたんです。その後、栄養学を本格的に学んで行き着いた結論も、やっぱり『バランスがすべて』ということでした。どんなに体に良いものでも、偏ってしまっては逆効果。
美容も全く同じです。例えば私は40代からストレッチを始め、その後ピラティスや筋トレを取り入れましたが、背筋と腹筋がしっかり支えられると美しい姿勢が保てるし、結果としてフェイスラインのもたつき予防にもつながる。外見のケアもインナーケアも、すべてはひとつのサイクルとしてぐるぐると循環しているんですよね」(藤原さん)
30代は「やってみたい」に素直に手を伸ばす時期。人と比べるのではなく‟昨日の自分”を楽しむ
仕事にプライベートに、ライフステージの選択肢が一気に増えるGINGER世代。西川先生自身も、「今頑張れなければ、数年後にもっと挑戦できるだろうか。今しかない」という思いで、キャリアを全力で駆け抜けてきたと言います。
そんな30代の葛藤に対し、30代半ばで事務所LA・DONNA(ラ・ドンナ)を立ち上げ、ヘアメイクのみならず空間コーディネートや商品開発など未知の領域へ果敢に飛び込んできた藤原さんは、温かいエールを送ります。
「30代は体力も気力もある、本当に豊かな年代。やったことがないからこそやってみる。いろんなヘアスタイルやファッションを試して、失敗したって全然いいんです。間口を狭めず、まずは興味の赴くままに世界を広げてみる。そのなかで『これが自分にフィットする』というものを少しずつ絞り込み、40代以降で深掘りしていけばいい。
もし忙しさでガチガチに力が入ってしまったら、自分なりの『緩める方法(弛緩する時間)』をひとつ持っておくこと。30代の私にとってそれは、夜の晩酌でした(笑)。頑張るときは思い切り頑張って、休むときはしっかり脱力する。そのメリハリも人生のバランスです」(藤原さん)

最後に、年齢を重ねることをポジティブに捉えるためのマインドセットを伺いました。
「年齢を重ねると、それぞれの年代特有の体の変化や不調は必ず訪れます。でもそのときに『もう年だから』と諦めたり、『あの人はいいな』と誰かを羨んだりするのはナンセンス。感情に振り回されるのではなく、『あ、こういう変化が起きたのね。じゃあどう改善しようかな?』と方法を探して軽やかにトライすればいいだけ。
人と比べる必要なんて一切ありません。比べるべきは、いつだって過去の自分。『昨日の自分より、今日ちょっと肌のお手入れを楽しめたな』『去年より少し垢抜けたかも』。その小さな前進を喜べる人こそが、何歳からでも幸せな輝きを放ち続けられるのだと思います」(藤原さん)
今回、初対面だったお二人ですが、美に対する確固たる信念を持って仕事と向き合う姿は共鳴する部分も多かったよう。
藤原さんは、「生き方も含め、美容全体を総括的に捉えていらっしゃる聡明な西川先生のような医師が増えるとは今後の美容業界にとっても、日本の女性たちにとっても“それぞれの美しさ”の目覚めの成熟期に入る。お話をさせて頂いて、そのように確信いたしました」と振り返ってくれました。
【対談を終えて —— ナビゲーター・西川先生の気づき】
「美しさとは、決められた正解を選択肢のどれかから選ぶことではなく、自分自身の美意識という幹を太くしていくこと。藤原先生のお話を伺い、私たち美容に携わる医療者自身も、単なる技術者にとどまらず、お客さま一人ひとりの言葉にならない世界観やイマジネーションを引き出す存在でありたいと強く感じました。
『昨日の自分より、ちょっと心地いい自分へ』。情報が溢れる今だからこそ、自分の声に耳を傾ける余裕を大切にしていきたいですね」(西川先生)

