中野量太監督の最新作『私はあなたを知らない、』で、母を殺された少女・朝子を演じた早瀬憩さん。オーディションで勝ち取った役とどう向き合い、孤独や愛情をどう表現したのか。作品が問いかける“家族”や“赦し”のテーマ、自身が考える愛のかたちについて語ってもらった。
愛を失った朝子が見つけた小さな光

13年前、母を殺した男に会いに行く——。映画『私はあなたを知らない、』で早瀬憩さんが演じるのは、そんな過酷な運命を背負うヒロイン・朝子。幼い頃に母を失い、祖母にも先立たれ天涯孤独となった朝子は、自身の人生を大きく変えた事件の真相を確かめるため、服役中の西山夕平(役/坂口健太郎さん)と向き合うことになる。
映画『湯を沸かすほどの熱い愛』の中野量太監督が10年ぶりのオリジナル脚本で描く本作は、「知ること」と「知らないままでいること」の残酷さと優しさを問いかける感動のヒューマンサスペンス。映画『違国日記』と『あのコはだぁれ?』(ともに'24)でブルーリボン賞新人賞を受賞し、俳優として大きな飛躍を遂げるなかで出会った本作で、朝子という難役とどう向き合ったのか。

──朝子という役の魅力をどう感じましたか。
朝子の“愛を探し求める姿”にすごく心を動かされました。朝子はとても愛情深い人。その一生懸命さや、人を思う気持ちの強さは本当に素敵だなと思いました。
──朝子の愛情深さを表現するうえで大切にしていたことはありますか?
前半は“孤独感”を強く意識していました。朝子は祖母を亡くし、両親もいない状態で、一人になってしまっています。その孤独を常に自分のなかに持ちながら演じていました。
そして後半は、夕平の存在を知り、実際に会い、面会を重ねていくなかで変化していく朝子の心情を大切にしていました。最初の印象から少しずつ気持ちを丁寧に表現したいと思って演じていました。
──朝子役はオーディションで掴み取ったそうですね。どのような思いで臨んでいましたか?
オーディションの時点ではまだ脚本が完成していなくて、限られたセリフや情報だけをいただいていたので、その少ない材料のなかから朝子の心情をどれだけ読み取れるかを意識していました。また、監督はオーディションの段階からたくさん演出をつけてくださっていて、「次はこうしてみて」と具体的に導いてくださったんです。その思いにどれだけ応えられるかも大切にしていました。
──合格の連絡を受けたときはどんな気持ちでしたか?
まずはとてもうれしかったです。ただ、それだけではなくて、この作品が監督にとってとても大切な作品だということも感じていたので、朝子という重要な役を自分が担うんだという責任感も強くありました。

──中野監督作品といえばこれまでも“家族”を描いてきましたが、本作ならではの魅力はどこにあると感じますか?
監督ご自身が「人が亡くなるシーンはこれまでも描いてきたけれど、人を殺めるシーンを描いたのは初めて」とおっしゃっていました。だからこそ、この作品の核にあるのは「人を赦す」というテーマなのかなと感じていました。
また、この作品に登場する人物たちはみんな愛を持っているんです。ただ、その愛の形がそれぞれ違う。愛があるからこそ自分自身を苦しめてしまったり、愛をうまく伝えられないことで誰かを傷つけてしまったり。みんながそれぞれの愛の形を探しながらもがいているんですよね。個人的には、夕平が「何がどうすれば、本当の家族なんですかね? 血ですか? 手続きですか? それとも、一緒にいる時間ですか?」と問いかけるシーンがすごく印象に残っています。
家族とは何か、愛とは何か、そして赦すとは何か。本作はそんなテーマについて深く考えさせてくれる作品だと思います。
──監督から受けた演出で、特に印象に残っているものはありますか?
監督は、私にも朝子にも同じ目線・熱量で向き合ってくださる方でした。とにかく妥協がなくて、「今できる最大限を、そしてその先にあるものまで撮りたい」という思いにあふれていたんです。その熱量には私自身もすごく刺激を受けましたし、「応えたい」という気持ちが常にありました。
特に印象に残っているのは、物語の冒頭で医師から祖母の余命を告げられるシーンです。「覚悟が必要かもしれません」と言われた朝子が、「はい」と答える場面なのですが、その撮影のとき、私は“おばあちゃんが亡くなってしまう”という気持ちでいっぱいになっていて、涙が込み上げていたんです。でも監督は、「その『はい』をもっと力強く言ってほしい。こらえているからこそ響くものがある」とおっしゃってくださったんです。
悲しい出来事があったときに、あえて笑顔で振る舞ったり、うれしいことがあったときに、舞い上がらないよう冷静を装ったり。人は本当の感情を隠そうとするからこそ、その奥にあるものが伝わることがある。そうした“人間らしさ”を大切にしたいというお話でした。
もちろん、感情を爆発させることが悪いわけではないけれど、思っていることとは反対の行動を取ることで生まれる表現もある。その考え方はすごく大きな学びになりました。

──坂口健太郎さん演じる夕平と面会するシーンは、本作の大きな見どころのひとつです。実際に対峙してみて、どんなことを感じましたか?
面会のシーンは、本当に心身ともに削られるような時間でした。撮影自体も終盤で、そこにたどり着くまで何度も脚本を読み返していたんですが、それでも簡単に理解できる作品ではなかった。「母を殺した人に会いに行く」ということ自体、私には想像しきれない部分がたくさんありましたし、朝子が夕平と実際に会ったときに何を感じるのかも、脚本を読むだけでは限界がありました。
でも、実際に撮影が始まって、扉が開き、夕平が面会室に入ってきて、坂口さんと対峙した瞬間に、朝子の気持ちが自然と見えてきたんです。「朝子はここでこう感じたんだ」と、自分でも思っていなかった感情が湧いてきたり、面会を重ねるなかで夕平に対する気持ちが揺れ動いていったり。その感情の変化は、演じながら初めて知るものでした。坂口さんが演じる夕平に本当に助けられた部分が大きかったです。
──では、早瀬さんにとって、ご家族とはどんな存在ですか。
素でいられる存在です。悩みを相談することもありますし、楽しいことを共有することもあります。私にとっては支えです。
今回の映画で言うと、「支え」という言葉だけでは少し違うのかもしれませんが、夕平にとって朝子は、良くも悪くも“生きがい”のような存在だったと思うんです。特に幼い朝子が「抱っこ」と言って抱きつくシーンの夕平の表情が個人的にすごく好きで。初めて温もりを感じて、愛情が芽生えた瞬間のように見えるんですよね。血縁があるかどうかではなくて、どんな形であっても家族には愛があるのかなと思います。

──朝子と夕平も血のつながりはありませんよね。
最初に脚本を読んだときは、「母を殺した人に会いに行くなんて、朝子はすごい度胸だな」と思ったんです。でも読み込んでいくうちに、朝子には両親への憧れのようなものがあったんじゃないかなと感じるようになりました。おばあちゃんに大切に育ててもらって、たくさん愛情も受けていたけれど、心のどこかでは両親を求める気持ちがあったんじゃないかなと。
そして、そのおばあちゃんまで亡くなってしまい、朝子は愛を失った状態になる。そんななかで、夕平が殺人犯である一方、かつて自分を愛してくれていた存在だと知るんです。だからこそ、朝子は夕平の愛を少し求めていた部分もあったのかなと感じています。
──孤独のなかにいた朝子が求めていたものだったのかもしれませんね。
そうですね。大きな希望というよりは、小さな光のようなものだったのかもしれません。
【8月28日(金)公開】映画『私はあなたを知らない、』

出演/坂口健太郎、早瀬憩、堀田真由、倉田瑛茉、原田美枝子 ほか
原案・脚本・監督/中野量太
配給/クロックワークス
watashiramovie.com
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※新宿ピカデリーほか全国公開
早瀬 憩(はやせいこい)
2007年6月6日生まれ、千葉県出身。2019 年から芸能活動を開始し、2021 年に女優デビ
ュー。その後、ドラマ「ブラッシュアップライフ」(23)、NHK 連続テレビ小説「虎に翼」(24)など話題作に出演。 2024年に初主演を務めた映画『違国日記』と『あのコはだぁれ?』での演技が評価され、第16回 TAMA 映画賞最優秀新進女優賞と第67回ブルーリボン賞新人賞を受賞。近年の主な出演作に映画『か「」く「」し「」ご「」と「』(25)、『この夏の星を見る』(25)など。10月30日に『見上げてごらん』、11月13日に『呪いのスマホ』など、公開待機作が多数控える。
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