本当は興味津々なのに、決して踏み出せない――芸人 紺野ぶるまさんの自分観察。【連載「奥歯に女が詰まってる」】
バイトリーダーの言葉を思い出す女

先月とても忙しい週があった。
一週間でネタを10本くらい提出しなければならなかったのだ。
そこで思い出すのが昔やっていた居酒屋バイトである。
芸人の給料だけでは生活がとても難しいとき、食い繋ぐために入った場所だったが、バイト同士仲もよく、年上の人からいろんなことを教えてもらった。
10年以上経った今、こういう意味だったのかと理解が深まることがいくつかある。
二つあげてみたい。
お店が暇なときだった。今日で店を辞めるというバイトリーダーだった人が洗い場にあった一つのグラスを見て「これ洗わないの?」と言ってきたのだ。「もう少しまとまってからやった方が早いかなと思って」と答えると「どうせ忙しくなるしそのとき一つでも少ない方がいいよ、そうすると洗い物早い風になるから褒めらるよ」と言われたのだ。正直当時は要領の悪い人だなと思ってしまったが、このときのことは今でもよく思い出す。
先月も最初は締め切りは一つしかなかった。それもまだ先だしと放置していたらあれよあれよと違うものが入ってきて、あのときに一つでもやっておけばもう少し楽だったと後悔したのだ。
仕事というのは急に忙しくなるのだから、そこを意識していないといけない。
完全歩合制のこの芸人の仕事で暇な週というのは時に恐怖でしかないが、きっと忙しくなると思って、そのときのために常にネタを考えるようになった。おかげで最近「ネタいつ作ってるの?」と聞かれることが増えたように思う。
そしてもう一つは失敗談である。
バイト面接の際に閉店時間を聞くと、そのリーダーから「深夜1時」と言われたので、それならもう一つやっていた朝のバイトと掛け持ちできると安心したのだが、いざ初日になると閉店した後の締め作業に1時間くらい要する。そこからお疲れ様とまかないをみんなで食べ、店を出る頃には深夜3時になることもあった。翌朝7時半には起きないといけない私はとても疲弊した。
しかし「聞いてません」と言って早退したりやめることが怖くてできないまま、二年働くことになった。
その間、常に頭のなかでは「聞いてないよ」があったため、尽力できなかった。
この経験を元に私はなにかを頼まれるとき、どれくらいの仕事量なのか、どれくらいの金額がもらえるのかを聞くようにしている。実は金額を聞くのは芸人にとってタブーな場面もあるのだが、そんなのは関係ない。ストレスをそのままにしてると人間としてのパワーがどんどんダウンしてしまう。
とはいえこの居酒屋バイトの経験は今となってはとても貴重なのだから、ストレスに負けそうなとき「なんでも後々活きてくるかも」という感覚が一番の収穫なのかもしれない。
最後に
バイトリーダーの言葉とかけまして
アラフォーの筋肉痛と解きます。
その心はどちらも
時間が経ってからじわじわくるでしょう。
紺野ぶるま(こんのぶるま)
1986年9月30日生まれ。松竹芸能所属。著書に『下ネタ論』『「中退女子」の生き方 腐った蜜柑が芸人になった話』などがある。
Instagram @buruma_konno
X @burumakonno0930


