本当は興味津々なのに、決して踏み出せない――芸人 紺野ぶるまさんの自分観察。【連載「奥歯に女が詰まってる」】
大人な番組で成長させてもらう女

先日五年間お世話になった番組を卒業させていただいた。このオシャレなサイトの連載でこのタイトルを出していいのかわからないが、「笑福亭鶴光のオールナイトニッポン@J:COM」である。グラビアアイドルちゃんが水着で踊ったり、“大人”な謎かけや川柳を読み上げたりとそれはそれは上品な番組。まだ売れてるとはとてもいえない私が一つの番組にこんなに長く出してもらったのは初めてで、心の支えでもあった。それなのに、“大人”の事情で卒業というお達しを聞いたときは、不思議と悲しくなかった。
共演者の方、そしてスタッフさんと定期的に会えなくなるのはもちろん寂しい。が、毎日会う人が変わると言っても過言ではない一期一会のこの仕事で、会えなくて嫌だと思えるような、向こうも嫌だと思ってくれそうな関係値を築けたことに感動してしまったのである。
「行ってらっしゃい」と言われているような「番組がなくても繋がっているから大丈夫」と微笑まれたような気がしたのだ(実質降板なのにポジティブすぎだろうか)。出会いへの感謝しか残らないほど、大きく成長させてもらった。
長く仕事をするうえで重要なことをたくさん学ばせてもらったのである。
芸人としてより“大人”としてだ、いくつかまとめたい。
1. 挨拶をちゃんとする
いやそれはもう当たり前なのだけど…。しかしながら月に2回、五年間もやっていると、あの席にはあの人がいてこの扉の向こうにはあの子がいて、といつもの景色になってついつい中途半端になってしまう。私はそういう人間である。いや人間とはそういう生き物だと思う。それを熟知してるのか先輩たちはいつも90度のお辞儀を各方面にしていた。真似してみると毎回初回の気持ちで挑む気概を周りにも、自分の脳にも伝えることが出来て、新鮮な気持ちで挑めるのである。
2. お土産や差し入れを持参する
長くいると定期的にいろんなお菓子をいただく。いつだったか美容家のIKKOさんが雛壇芸人が50人くらいいた現場で「心込めてIKKO」と手書きの手紙と美容グッズをプレゼントして下さっているのをみて「売れたらこんなことしてみたいな」なんて憧れたのを今でも覚えている。とはいえいつまで経っても売れないし、お金があるからできることではないと途中で気付き、文字通り「お気持ち程度」から始めてみようとお土産やバレンタインデーなどに少しの差し入れをしてみると自分の有り余る感謝がアウトプットされてスッキリすることに気付いた。「差し入れならここのお菓子」といくつかレパートリーが出来たら立派な大人である。これも長くあの場にいたから知れたことである。
3. 自分から心を開く
私がいかんせん空気が読めないタイプなので、大人になってからは余計なことを言わないようにしようと努めてきた。本当に仲良くなれる人とは何かしなくても自然と仲良くなるだろうと無難を貫いてきたところがある。確かに嫌われはしないけど特別距離が縮まることは基本ない。それはどんなに時間を使っても同じである。この現場の人はガンガン心にノックノックしてくれた。下ネタがフルオープンの現場というのもとても重要だったと思う。それにゴシップが加われば最強である。それも都市伝説みたいなことをずっと話してると一気にリビングの空気になる。人との壁って自分の脳みそだけで作られているものなのではと思って、いつからか他の現場でも自分から話しかけるようになった。その一歩が意外と十歩くらいになったりもする。大人だからこそ余談が大切なのだと知った。
三つ並べてみると記事にするのを躊躇するほど当たり前のことである。
しかしこれらが出来ている人はできていることを特段褒められている。できる人が少ない証拠である。
さて、卒業と共に成長したのは喜ばしいが、仕事がなくなった分の収入はどうしようか、“大人”の悩みはなかなか尽きない。
最後に
降板しても大好きな番組とかけまして
差し入れのお菓子と解きます。
その心はどちらも
放送(包装)が楽しみでしょう。
紺野ぶるま(こんのぶるま)
1986年9月30日生まれ。松竹芸能所属。著書に『下ネタ論』『「中退女子」の生き方 腐った蜜柑が芸人になった話』『特等席とトマトと満月と』がある。
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