本当は興味津々なのに、決して踏み出せない――芸人 紺野ぶるまさんの自分観察。【連載「奥歯に女が詰まってる」】
年下に傷つけられる女
リモートで打ち合わせをしてるときだった。
その日の相手は10歳近く年下の男性たちだった。
年下がいると「ちゃんとしなきゃ」と構えてしまう節があるので元々苦手だったが、そうは言ってられないほど最近は当たり前のように自分が一番年上である。気にするのも億劫になった。実際打ち合わせは恋愛の話でおおいに盛り上がった。
終わりの挨拶をするともう私の接続が切れてると思ったのか、そのうちの一人の男性が「俺全然いけるわ」と言ったのが聞こえてしまった。
私は驚いて慌てて退室したのだが、切った後に「私っていけない前提」だったんだというショックと「こっちがお前いけねえわ」という怒りの間にいた。
年齢を重ねただけでこうも馬鹿にされるのか。しかし悔しいかな20代の人たちとの打ち合わせは楽しかった。
「若い人と話すと元気もらえる〜」といつか公園のベンチに座っていた仙人みたいなお爺さんが言っていたことと同じことを思っていた。
当たり前だがこれからも私は年をとり続け、周りに若い人がどんどん増えていく。見えないところでまた「いけるいけない」と勝手にネタにされ笑われるかもしれない。それに薄々気づきながら耐えるしかないのだろうか。
なんとか対策を練れないかと、考えたのが「年上好き」を声高らかに宣言することだった。実際年上が好みというのもあるが、「変な奴に値踏みされない対策」としても良いと思う。
そこで思い出すのが「熟女好き」を謳う芸人たちだ。彼らの好感度の高さはいうまでもない。人は熟すほどに美しくなると語る姿は人間理解が深くて魅力的だし、人懐っこさを感じる。
ターゲットではない若い女性からは「じゃあ私たちのことはそういう目で見てないんだ」と警戒心がなくなるし、熟した先には彼らが待っているという安心感もある。
それと全く同じ効果が「年上好き」を語ることで叶うということだ。それに加えダル絡みしてくる若い男性に冒頭の「こっちがお前いけねえわ」を伝えることができる。
イケメンのアイドルグループの人がテレビで好みの女性のタイプを聞かれたときに「ふくよかな方」と言うのをたまに目にするが「そういうことだったんだ」と妙に納得した。
もちろん本当にふくよかな方が好きな人もいると思うがそれを公言することで、ふくよかな人はありのままで、そうでない人も決して脱落したわけではないという最高にでかい網を張れる。夢を与えるアイドルとしてこれ以上ないベストな回答だと尊敬した。
と最高の刀を用意したところで気づいた。そういえばここ最近「好きなタイプ」を聞かれていない。既婚ということもあるかもしれないがそういう会話を一切してない。スタイルのいい若い男性の前で「おじさまでふくよかな人しか興味ない」と言い放ちたいのにその機会が一切ない。
もしかして一生ないのかも…? 「いける感じ」を必要としてそれにこだわっていたのは自分だったのかもしれない。ここからはいよいよ年齢にも性別にも頼らず己の力量のみで戦うフェーズになる。それはそれで楽しみでもある。疲れたときは熟女の良さを語っている動画でもみよう、と自分の保身のために用意した刀をスッと納めるのであった。
最後に
年上好きとかけまして
インド人と解きます。
その心はどちらも
加齢(カレー)の素晴らしさを語るでしょう
今日も女たちに幸せが訪れますように。
紺野ぶるま(こんのぶるま)
1986年9月30日生まれ。松竹芸能所属。著書に『下ネタ論』『「中退女子」の生き方 腐った蜜柑が芸人になった話』『特等席とトマトと満月と』がある。
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