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TIMELESSPERSON

2024.06.09

恐怖体験「逃げるなら今しかない」と半裸のまま走り去ろうかと迷った【紺野ぶるま】

本当は興味津々なのに、決して踏み出せない――芸人 紺野ぶるまさんの自分観察。【連載「奥歯に女が詰まってる」】

初めて病院にクレームを入れる女

紺野ぶるまエッセイ

何か少しでも気になることがあったらレディースクリニックに行くようにしている。先日は月経過多が気になって行ったのがきっかけで、子宮にポリープが見つかった。日帰りでオペしてくれる病院を紹介してもらったのでそこに予約の電話をかけると、一気に不安になった。

医師が直接出て、終始めんどくさそうに「今どういう状態って言われた?」「予約はネットからできるから」とかましてきたのだ。

しかし信頼してるクリニックからの紹介だし、この医師が担当するとも限らないしと検査の予約を取った。

いざ、当日医院に到着すると、私とそこまで年齢が変わらなそうな医師が「一回みてみるね〜」と言ってきて「この人だ…」と一気に体が強張った。

内診室に行くとベテラン看護師さんのようないで立ちの女性が「えっと、カバンは、どこに置いてもらおう…」と何やらまごまごしていて、すぐに入りたてなんだとわかった。

「下着を脱いで土足のまま台に上がって」と看護師さんが言うと、間髪いれず「靴は脱いで!」と医師がカットイン。

そこからは完全に疑心暗鬼モードで「逃げるなら今しかない」と半裸のまま走り去ろうかと迷ったが「はい、始めてくよ〜」ともはや、まな板の上の鯉…。

「あれ鯉だっけ、魚だっけ、鯛だっけ…」

と魚の言い回しを思い出すことで気を紛らわそうとするが、看護師さんが下手をしないか気になって仕方ない。

検査で子宮に入れるであろう液体が入った袋を持っているが、本当にそれであっているのか。

この人、倉庫から違うもの引っ張り出してきたりしてないだろうか。

「それなんですか?」とバカなふりして聞いてみる。

医師が「これ? 気になる? 水みたいなもの、あはは」といって看護師にセットするように促すと、私の体につながっている管につなげる。

いよいよその水が流れてくるはずが、セットが甘いのか、管が外れて看護師さんの手元で大放出している。

こんなのドリフでしかみたことない。

はっきりと「あわあわ」と言いながらびちゃびちゃの手でチューブを繋げているが、この人、検査の前にポテチとか食べてそうだし、その手で管をこねくり回したら私の中にのり塩とか入ってくるんじゃ…!ともう半泣きだった。

やっと子宮に水が入ると「あれ〜ポリープないな〜、ねえ、(モニターに)映ってないよね〜?」と素人の私に確認してくる医師。

「もっかい、もっかい」と言いながら、何度も大事なところに機械を入れたり出したり。

終わる頃にはぐったり疲れていてなかなか起き上がれない。

そうだ、なんか違和感があると思ったら、この内診台リクライニングが最初からマックスで倒れていた。(通常、腰をかけてから倒すはず)

看護師さんが「大丈夫ですか〜?」と酔っ払いを起こすように私の手を引っ張ってきたが「リクライニングありますよね」というと「あわ」と言ってスイッチを押して、私の体は起き上がった。

診察室に戻ると「ポリープはたぶん月経と一緒に剥がれ落ちたのかもね、たまにあるよ、よかったね」と言い渡された。

が、私は心のなかで「誰が信じるんだよ!」と憤慨していた。

帰ってからも、あの場で何もできなかったことが悔しかった。

いや仕方なかったが、仕方ないことが起きたことが悲しかった。

後日元々行っていたクリニックに電話で「紹介してくれた医院が怖すぎた」旨を話すと「おかしいな、すごい評判なんですけどね」と返された。まるで私が神経質みたいじゃないかと二重で傷ついた。いや、実際神経質なんだけど…。

そこで気がついた。私は神経質な割りに自分の感覚に自信がない。「また小さいことで自分だけ騒いで」と常に自分で自分を責めてしまうのだ。だから他人のちゃっとしたリアクションに傷つくのだ。そして周りに合わせてしまうのだ。本当は最初に電話した時点でもう嫌だったじゃないか。

37歳になって思う。神経の細さは今後もさして変わらない、それは別に悪いことではないし、自分だけはそれをスルーしてはならない。そうでないと、必要以上に自分を責めたり、傷つけてしまうからだ。

「他の人はどうかわかりませんが、私はよくないと感じました。すいません、それだけです」と伝えると、少し楽になった。

そして「ポリープなくなって、よかった」と診断結果に初めて安堵するのであった。

最後に

あのときの看護師さんとかけまして

何に怒っているのかわからないクレーマーと解きます。

その心は

どちらも無駄に管(クダ)をまいてしまうでしょう。

今日も女たちに幸せが訪れますように。

紺野ぶるま(こんのぶるま)
1986年9月30日生まれ。松竹芸能所属。著書に『下ネタ論』『「中退女子」の生き方 腐った蜜柑が芸人になった話』『特等席とトマトと満月と』がある。
Instagram @buruma_konno
@burumakonno0930

TEXT=紺野ぶるま

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