伝えたい想いがあるとき、人は手紙を書きたくなる。女優の山口乃々華さんが、“あのひと”に向けて今の気持ちをしたためる連載。今回は、喫茶店に居合せた女の子に向けたメッセージ。【連載「〒ののポスト」】
喫茶店にいた女子高生へ
ある喫茶店に、私は時間を潰すために入りました。窓から差し込む西陽でオレンジに染まっている店内には、ちらほらとお客さんがいて、みんなおしゃべりに花が咲いているようで、ちょっと賑やかな印象。そんな喫茶店で斜め向かいに座っていた制服を着たあなたは、お友達とおしゃべりしていました。
会話が少しだけ聞こえてきてしまって、思わずお手紙を書きたくなったのです。盗み聞きしてごめんね。
「許さなきゃよかったかも」と、あなた。
「うぅーん、まぁ相手に流されたのかもね。○○(その女の子)は優しいからなぁ」とご友人。
「私、自分がなさすぎる?」とあなた。
内容は、どうやら付き合っている彼と喧嘩した、とのこと。それを納得しきれていないまま何となく許してしまったらしい。もう、今は、彼とそのことについて話し合いはしたくないし、その話題もなるべく避けたいくらいだそう。
何があったのか、細かいことはよくわからないけれど、私は悩んでいるあなたが気になってしまって、ちょっと考えてしまいました。
人と関わるうえで、どうしても相手の意見に流されることがあります。強く主張されたりして押されてしまうこと、はたまた、こちら側にそこまでのこだわりや想いがないときに、向こうの意見に賛成してしまうこと。——それって、何か自分が無責任で、ダメなことしちゃった気になるけど、そんなダメなことではないと思うのです。
「嫌! 無理!」と相手を突き離せる強さを持たないといけないとか、自分を大事にしないといけないとか誰かに言われたのかもしれないけれど、きっとあなたは何にも考えずに選択をすべて相手に委ねてしまったわけではないのですよね。そんな次元の悩みではないのでは?と私は思ったのです。いろいろ考えたうえで、まあいいよ。と許したのでしょう。
私の話になってしまうのですが、恋愛に限らずある時期、人に流されすぎている? 自分って何だろう? 何だか自分がないように感じて嫌だな。と思い、「意見は曲げない! 頑固になる! 物分かりの良い女の子になんてならない!」と思って過ごしていたことがありました。しかし、そういう、自分が本気で許せないこと、守りたいものって、心が勝手に決めてくれることで、こうしよう、と思ってできることではありませんでした。へんに意地を張り続けるより、好きな人と、好きな時間を、好きなように過ごした方が自分のことがわかる気がします。
だから、あなたの出した答えはまったく間違っていないと私は思います。
そして、何か相談した相手に「流されてるじゃん」と言われるとちょっとイラッとしますよね。あなたはそんなことなかったかもしれないけれど、私は最近イラッとしました。「流される」ことが好きじゃないから。でも、意見を自分なりに持ち、それについてちゃんと考えたのなら、物事を決定するのが自分ではない場合があっても、いいのではないかなと私は思います。
ただ、どんなときも、責任を持つことに変わりないから、どうしてもやっぱり嫌だと思うのだったら、恋人同士なのだし、やっぱり納得がいかない、と勇気がいるかもしれないけれど、話し合いをしてもいいと思います。
だからとにかく、そんなに悩まないでくださいね。と言いたかったのです。
あなたはあなたです。心が動いている限り、自分の意見がない、自分を持っていない子、なんて、いません。したいようにできる日がきます。
これからも幸せな日々がありますように。
お勉強もがんばってね。
山口乃々華
山口乃々華(やまぐちののか)
3月8日生まれ、埼玉県出身。2020年末まで E-girlsとしての活動を経て、2021年から女優として本格的に活動を開始。 映画『イタズラなKiss THE MOVIE』シリーズ、ドラマ・映画「HiGH & LOW」シリーズやHulu版「崖っぷちホテル!」などに出演、『私がモテてどうすんだ』ではヒロイン役を務めた。近年ではミュージカルにも活動の幅を広げ、2022年には「SERI〜ひとつのいのち」でミュージカル初主演を務め、2023年は「SPY×FAMILY」ではフィオナ・フロスト役、a new musical「ヴァグラント」ではヒロイン(W)役を好演。2023年末から2024年1月の舞台「呪術廻戦」-京都姉妹校交流会・起首雷同-では、釘崎野薔薇役を務めた。5月9日より舞台「ドレミの歌」東京・愛知公演に出演予定。また7月にはミュージカル「ラフヘスト~残されたもの」の出演が控えている。
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