伝えたい想いがあるとき、人は手紙を書きたくなる。女優の山口乃々華さんが、“あのひと”に向けて今の気持ちをしたためる連載。今回は、ふと目にした光景から広がった想い。【連載「〒ののポスト」】
ひとり泳ぐ鳥へ
誰かとはぐれてしまったのでしょうね、長く続く川にひとりぼっち。あなただけが泳いでいました。まだ葉も紅色に染まっていない季節でした。
それを見ていた私は、すっかり感傷的な気分になりながら、寂しそうだな、なんて思ったりしました。 どこかへ向かう途中、ひとりぼっちなのはよくあることですよね。
2023年を振り返って思います。いろんなことがありました。後悔しないために、そして、ひとつひとつの選択に納得していくために、一生懸命生きて頑張ることがそのときの私にできることでした。
しかし、納得できるところまでやり切る、なんて、果てしなくゴールがない。なんの達成感も得られないのですね。 納得できたその先に自信を持った私に出会えるのだろうと思ってここまできました。 自分自身を厳しく叱って、できたことも、できていないことも全部に対して足りているはずがない!と考えてきました。
そうすると、嵐のように風が吹いたとき踏ん張ることがうまくできず、そのままズブズブと吹き荒れるネガティブな感情の渦に巻き込まれていくのみでした。その方が気が楽になるのです。この野郎!まだまだじゃないか!とさらに自分をいじめるようにして、私は前に進めている、と実感したつもりになって安心感を得ていたのです。
しかし、そんな私と最近おさらばしました。めそめそして、否定ばかりで、そんな自分が嫌になったからです。 早足で駆けていくのも、ゆっくり歩むのも、立ち止まるのも好きにすればいいや、と思えています。 投げやりになったわけではなくて、ただそこにいる自分を認めていく、ということがちょっとだけ得意になったのだと思います。そのおかげで今は達成感を得れる予感がしているし、次に進む勇気を持ち続けることが私自身の生きるエネルギーになるのでは?と価値観みたいなものが大きく変わっていくのを感じています。
あのとき川にいたあなたは、今思えば寂しくなんてなかったんじゃないかな。自由にのびのびと好き放題泳ぎながら、ご飯を探したりして遊んでいただけなのかもしれないのに、そのときは都合よく私と重ねて寂しそう、だなんて。失礼しました。
あなたは今どこを泳いでいますか? 行きたいところに辿り着けているでしょうか? 何か見つけられたでしょうか?
自由に泳いだ先に仲間や家族と出会えているかもしれないし、全然知らない誰かといるかもしれませんね。 またあの川に行くことがあったら、ちょっと立ち止まってあなたを思い出してみることにします。
山口乃々華
山口乃々華(やまぐちののか)
3月8日生まれ、埼玉県出身。2020年末まで E-girlsとしての活動を経て、2021年から女優として本格的に活動を開始。 映画『イタズラなKiss THE MOVIE』シリーズ、ドラマ・映画「HiGH & LOW」シリーズやHulu版「崖っぷちホテル!」などに出演、『私がモテてどうすんだ』ではヒロイン役を務めた。近年ではミュージカルにも活動の幅を広げ、2022年には「SERI〜ひとつのいのち」でミュージカル初主演を務め、2023年は「SPY×FAMILY」ではフィオナ・フロスト役、a new musical「ヴァグラント」ではヒロイン(W)役を好演。12月15日~上演中の舞台「呪術廻戦」-京都姉妹校交流会・起首雷同-では、釘崎野薔薇役を務める。12月27日に配信された華の最新シングル「you」(POPCORN RECORDS)のミュージックビデオにも出演している。
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