半年に1度行われる各雑誌の「ベストコスメ」特集。美容家の神崎恵さんも、このお仕事に真剣勝負で取り組んでいる。その際に発揮される「集中力」は、周りだけでなく自身も認める強みのひとつだそう。【連載「Megumi’s Mirror」】
集中力オバケ
美容家にとって、ピリリとする仕事のひとつが各雑誌の「ベストコスメ」特集です。時代の動きやファッションのトレンド、人々は今、何を求めているのかなどを踏まえ、メーカーさんの知恵と努力が詰まった、いわば作品ともいうべき商品を、私たちはしっかりと厳選して、その魅力を全力でお伝えするわけで、毎回、本当に真剣勝負です。
撮影の際は、室内に何百個、いや何千個というコスメがずらりと並びます。その光景たるや圧巻というしかなく…、こちらも思わず、背筋がピンと伸びるのです。
さて、これらのコスメたち、ほとんどは、メーカーさんからの貸し出しサンプルです。ですから、箱から出した以上は、また、元の箱に戻して、返却をしなければいけません。
今は、各編集部の方がその作業をしてくださっているわけですが、かつて駆け出しのころは、私も、撮影のたびに膨大な量のサンプル用コスメをお借りし、試したり撮影したりして、また返却をする…という作業を繰り返していました。
コスメというのは、皆さんご存じのとおり、パッケージもため息が出るほど美しいですよね。ですから、箱から出すときも、また箱にしまうときも細心の注意を払います。
加えて、たとえばリップを想像してみてください。箱の見た目は同じですが、底面に商品番号や色番が書かれている場合がほとんどです。新色が30本あったとしたら、中身を取り出して撮影して、また箱に戻す作業を30本分。それが5社だったら、150本。つまり、箱の底面の色番と中身の色番を間違えることなく、きちんと戻すことを150回、繰り返すわけです。華やかに見える美容の仕事ですが、この作業はとても地味です。でも、商品を大切に扱い、きちんとお戻しすること。これは、基本中の基本、この仕事のもっとも大切なことだと思うのです。
さて、私は昔から、この作業がとても好きです。もちろん、どんなに数が増えたとしても、撮影してすぐに元の箱に戻せばいいとか、付箋に色番を書いておくとか、効率的な方法はいくらでもあります。
でもね、撮影を終えたリップの底の色番を確認して、同じ色番の箱に「ありがとう」の気持ちを込めて、そっとしまう…。その、淡々とした静謐な作業が好きなんですよね。
そして、信じてもらえないかもしれませんが、ものすごく、ものすごーく集中していると、リップの底の色番を見なくても、手に持っただけで、「この子は何番で、その箱はあの子!」って、わかってしまうんですよ、私。いや、本当に(笑)。
そういえば、昔、クイズ番組に出たとき、ゆで卵のなかに混じった生卵を見つけよ、というクイズがあって、ものすごく集中したら、ひとつだけ発光している卵があって…、見事正解したこともありましたっけ。周囲の人からは、「神崎さんって、“集中力オバケ”だよね」と、よく言われます。
確かに、めちゃくちゃ集中したときの、火事場のバカヂカラというか、何かこう、神がかったパワーを発揮できる点は、自分でも認めます。
何より、私、神経衰弱、ものすごく強いんです、負ける気がしません(笑)。
集中力は年齢とともに衰えているかもしれないし、持続する時間も年々、短くなっているような気もする。でも、人間、「魂」を込めた瞬間って、とてつもないエネルギーを発するように思うんです。いくつになっても、“集中力オバケ”の称号をキープできるよう、精進したいと思います。