伝えたい想いがあるとき、人は手紙を書きたくなる。女優の山口乃々華さんが、“あのひと”に向けて今の気持ちをしたためる連載。今回は、1930~1950年代に活躍した米国女優 タルラー・バンクヘッドに宛てた手紙です。【連載「〒ののポスト」】
自分自身であり続けること、その強さが欲しい
タルラー・バンクヘッド様へ
初めまして。
あなたとの出会いは、映画『クルエラ』のクルエラについて調べていたときです。ディズニー史上最も悪名高い悪役と言われているクルエラ。黒と白に分かれた髪の色から、ただ者ではないと感じさせられます。そんな役を実写化するにあたり、モデルとなった人物がいたと知って驚きました。
私はネットに残されたあなたに関しての情報を興味津々に読みました。それはきっと、あなたのほんの一部の姿にしかすぎないのでしょうが、それでも、その自由奔放さ、怖いもの知らずのように見える生き方…とても潔い方だったのだろうと想像し、思わずニヤリと口角が上がり、興奮してしまいました。
そんなあなたにお手紙を書きたいと思ったのは、私はこの頃、初めましての人に会うと決まって"猫かぶり・ぶり子"(いい子に見せようとしてるときの私の名前)になっていることに違和感を感じ始めたからです。私なりにいつのまにか身につけていた、人見知りをした際の防衛術なので、それが息苦しいとも、辛いとも思っていません。しかし、そんな自分でいても楽しくはないし、壁を作り上げてしまうのでうまく人と関われず、つまらないのは確かです。
あなたは、どこへでもノーパンで出かけて仕事をしたり、誰かの悪口を言いまくったり、タバコを1日120本(!?)吸ったり、たらふくお酒を飲んだり(この世を去る瞬間までバーボンを口にしていたとか)されていたとのこと。
とにかく欲望を抑えることのない堂々とした生き様は、どんなときでも自分自身であり続けるということを真っ当されていたようで、私の目には素敵に映りました。真似したくても、誰もが真似できるわけではない達人技のように感じます。
そんなあなたの屈しない強いハートと、揺るがぬ自己というものに、私はたちまち惹かれてしまいました。抑えつけてこようとする敵はたくさんいただろうに。きっと世間の流れというものにも、負けそうになった瞬間だってあったはず…。それなのに、どうしてあなたはそんなに強くあれたのでしょうか。
あなたらしさを並べれば、本物の悪役のような要素がたっぷりなお方。けれどあなたは、女優のお仕事に限らず、番組のMCをされたり、包み隠さずスキャンダルを大衆に話す人間性から、たくさんの人に求められ、愛されていたと、記されています。
正真正銘のとびきりの悪役は、なりきっていたものなのか、はたまた結果的にそうなっていってしまったものなのか…。
真相はどうであれ、堂々としたあなたの姿から影響を受け、すぐにへこたれる弱々しい私の精神を叩き直したい気分です。いつでも自分らしく…それは、今の私にとって難しいことですが、少しずつ他人への緊張から解放されてリラックスした状態でありたいし、相手からの攻撃だって、なんなく受け流せるようになっていきたいです。
山口乃々華より
山口乃々華(やまぐちののか)
3月8日生まれ、埼玉県出身。2020年末まで E-girlsとしての活動を経て、2021年から女優として本格的に活動を開始。 映画『イタズラなKiss THE MOVIE』シリーズ、ドラマ・映画「HiGH & LOW」シリーズやHulu版「崖っぷちホテル!」などに出演、『私がモテてどうすんだ』ではヒロイン役を務めた。近年ではミュージカルにも活動の幅を広げ、『INTERVIEW~お願い、誰か僕を助けて~』『ジェイミー』『あなたの初恋探します』にヒロインとして出演。2022年には「SERI〜ひとつのいのち」でミュージカル初主演を務め、2023年3月〜5月に上演されたミュージカル「SPY×FAMILY」ではフィオナ・フロスト役を好演。8月より上演されるa new musical「ヴァグラント」ではヒロイン(W)を務める。
Instagram yamaguchi_nonoka_official
Twitter @nonoka____Y