本当は興味津々なのに、決して踏み出せない――芸人 紺野ぶるまさんの自分観察。【連載「奥歯に女が詰まってる」】
第54回 頭の良さそうな喋り方をする女
エステの初回お試しで気分よく帰ったことなど一度もない。
施術は良くても、コース料金が思ってた2.4倍くらい高いのだ。こちらが判断しかねている様子を見て、エステティシャンは先手を打つようにつらつらと話し出す。
「まずオススメする理由が二点あります。まずは一点目が……」
大人が相手を説得しようとするとき、だいたいこの入り方をする。普段の打ち合わせや何かの発表などでも多用されるが、言われた人の関心は不思議とその二点に集中する。
入会する気なんてちゃんちゃらなかったはずなのに、アンパンマンを見せられた幼児の如くグッと話に引き込まれる。不可抗力と言っていいほどのかなりの有効打だと思う。きっと「プレゼンのコツ」みたいな本とか、セミナーとか王道のマニュアルがあるのだろう。
頭のいい人というのはいつも基本に忠実だし、もはや誰かに後押しされていないと辻褄が合わないくらい、このパターンを使う人は自信に満ちている。
入りも上々に成功したら、彼女たちは必ず自身の失敗談を入れてくる。
「私自身も元々無理なダイエットをして…」
「サロンでシミを消しても結局また新しいのができて、その繰り返しで結局100万近く使ったんです…」
そして、根本的な原因を解決しないと意味がないことに気づいた、というところに着地する。その答えこそがこのサロンにあるという話に持っていくのだ。さらに、一通りサロンの良さを説明するのだが、その後に「日頃のセルフケアがすごく重要」というフレーズをさりげなくぶち込んでくる。
セルフケア以上の効果はこのサロンでは出せないということなのだが、
「でも、自分でやるってなかなか続かないじゃないですか? そのお手伝いを私たちにさせていただければ…」
「と、言われても…!」という顔をしていると、「どうしたいかだと思いますよ? このまま同じことを繰り返すのか、これを機に綺麗になりたいか?」と急に胸ぐらを掴むような質問をしてくる。
「これを機に不摂生やめてたくさん歩きます……」
なんて言えるわけもなく「ちょっと検討していいですか?」と答えた瞬間、「そしたら3日以内を目安に、入会の意思があるかないかだけメールでいただけますか?」と、彼女は目を座らせ「マニュアルに忠実な人の役」から降りる。
「お姉さんこんな顔だったっけ?」
この人に背中を向けたら刺されるんじゃ…。
見てはいけないようなものを見た気がして、ビクビクしながら靴を履いて逃げるように退店する。
そして忘れたころに、「今度こそ綺麗になるチャンスです」という啓発じみた広告にまた惹かれて、同じ過ちをを犯すのであった。
最後に
「私たちにお手伝いさせてもらえれば…」という謳い文句とかけまして
お味噌汁と解きます。
その心はどちらも鼓舞(昆布)がなくても自分で喝を(カツオ)入れたらなんとかなるでしょう。
今日も女たちに幸せが訪れますように。