久しぶりに地元に帰ったとき、さまざまな“違い”に戸惑ったことがある人も多いはず。芸人 紺野ぶるまさんの場合は…【連載「奥歯に女が詰まってる」】
第51回 地元に根を張る女
最近地元に帰った時のことだった。
帰ると言っても西東京なので電車やバスを乗り継ぎ1時間弱。決して都会ではないが、ど田舎かと言われたらまた違う。
「東京出身」というだけで「シティガール!」なんて言われたりするが、高いビルがないから空が広いし、畑があるから常に緑の匂いがして、抜ける風は冷蔵庫みたいにひんやりしている。最寄のコンビニも駅も普段よりもずっと遠いのになかなか時間も進まないからいつもとは過ごし方がまるで違う。
化粧も必要ないし服もなぜだかいつもより分厚くてやぼったいものを着たくなる。
自分を誰かと比べたり評価されたりすることに疲れたら癒されにくる故郷。都心と同じ家賃で倍の広さに住めるこの地域に、いつか全てを捨てて帰ろう、そんなふうに逃げ場として考えている節もある。
久しぶりに会った友人のひとりは地元に新築の一軒家を建て、それはなかなかの豪邸だった。リビングなんて託児所くらいの広さがある。家の作りからおもちゃ置き場の収納まで子供を育てるには完璧な環境で、4人も子供がいるとは思えないほど片付いていた。
しかし「すごい!」と感動していたのは最初だけで、集まったみんなで繰り広げられたテーマ「子育て」にはすぐに息が詰まった。
つわり、分娩時間、夜泣き、食べ物の好き嫌い、人見知り、すべて命がけでやっているつもりだが、誰がなにを話しても最終的に必ずその豪邸の持ち主が「4人もいたらそんなこと言ってられないよ〜」と一蹴するのである。
「まだジュース飲ませてないの? え〜箱入りちゃんだね〜」と誰かの丁寧な子育てを嘲笑する瞬間もあった。
「ていうかいつまで今の家に住むの?! 家賃もったいなくない?」とわたしが捲し立てられると、なにかを悟ったのか我が子は終始泣き止まなくなった。
「もうグズグズして。うちに慣れてもらわないと〜」と雑に身体を揺らしあやす様子には悪意すら感じてしまった。
帰る頃にはどっと疲れて、豪邸を出た瞬間にいびきをかいて眠る我が子をみて「もっと早く帰るべきだった」と泣きそうになった。
子の人数でマウントを取られることも不快だが、ここにはここの序列があることがショックだった。 地元に根を張り続け、この場で誰よりも豊かな暮らしをすると決めた人間の徹底ぶりは恐ろしい。「4人いるから」に引け目を感じている自分も残念だった。
使わなくなった歩行器、月齢が過ぎたおもちゃを届けると言われていたが、もらったら最後な気がしてうまいことLINEで断り地元を後にした。
きっと彼女からしたら楽しい友人との会話でしかなかっただろう。それが外にでないということならわたしも地元にいたままの方が幸せだったかもしれない。
肩を落としいつもの1DKに帰ると、不思議といつもより広く感じて、誰とも比べないことを求めてここにきたことを思い出すのだった。
最後に
豪邸とかけまして
すごく澄んだ山と解きます。
その心はどちらも上を見てもキリが(霧が)ないでしょう。
今日も女たちに幸せが訪れますように。