日ごろから“言葉”についてあれこれと思いを巡らせている壇蜜さんの連載『今更言葉で、イマをサラッと』第55回目。言葉選びと言葉遣いが、深く、楽しくなる。そして役に立つお話。どうぞお楽しみください！
その55『みんな』
「みんな言ってる」「みんな持ってる」「みんな行ってる」…そう言われると要求をないがしろに出来ない、ととある2人の子持ちの知人女性がため息交じりで語っていた。我が子が「みんな」から仲間外れにされたら厄介だし、毎日のように「みんなが…」と言われるのもなかなかしんどいようだ。
ゲーム機、携帯電話、流行のグッズ、イベントやアミューズメント施設等々、買って欲しい、連れて行っての要求の根源は純粋に興味もあるだろうが、「みんな」の枠から外れたくない、話題についていけないのが怖いといった危機感や焦燥感なのだと個人的には思う。自分にも幼少期から思春期にかけて「みんなが…」と親に伝えて買い与えてもらったものはいくつかあったのを思い出す。みんなが持っていた海外ブランドの色つきリップクリームや卵形ゲーム機、電子手帳…お小遣いをもらっていなかったので、親にねだるしかなかったのだ。
ちなみに知人女性が子供たちに「みんなって、誰？ 何人くらい？」「みんな、以外の（欲しい、行きたい）理由はある？」と聞くと、仲良しグループ数人だったり、実は流行っているだけで子供たち自身は興味があまりなかったりするなんて拍子抜けするようなケースもあるという。まずはダメ！と言うより詳細を聞いて、打開策や折衷案から提示してみるのが初期対策だと言っていた。
子供たちだけの問題かと思いきや、私たち成人にも「みんな」を持ち出してくる者はいる。とくに「みんなそう思ってます」「みんな言ってました」なんて、ミスや身勝手な行為の言い訳をするのに、理解して使う者も少なくない。己の意見に自信がなく、でも詰め寄られるのも嫌だからとにかく言い逃れしたいのかもしれない。後輩や部下に言われたら上の立場として「みんな、か…」と、何とも言えない気分になるだろう。
アナタを叱責するつもりはないと伝えるのが一番正直な意見を聞く近道だと心得、「その時、アナタはどう思った？ ちょっとお茶でもしながら話さない？」と小休止を含めて時間作りましょうよ、の態度を出してあげるのはどうだろうか。一服しながらだと人はなかなか激昂ムードにはなりにくい。
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