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TIMELESSPERSON

2022.02.13

いくつになっても、何度も繰り返してしまう失敗って?【紺野ぶるまの女観察】

女芸人 紺野ぶるまさんによる女観察エッセイ「奥歯に女が詰まってる」。GINGER世代のぶるまさんが、独自の視点で世の女たちの生き様を観察します。

第42回 一生勉強してる女

紺野ぶるま

先日、とある写真撮影のために髪型を変えようと美容室に行った。

ブリーチなどをして挑戦的なカラーにしたかったので、これは絶対失敗できないとインスタで入念に調べ、有名なモデルも手がける表参道のど真ん中にある店に決めた。料金にして¥30,000。

高校生時代からカウントすると、これまで美容室選び、ヘアスタイルでは、かなりの回数失敗してきた。その度に「勉強代」とし、今では随分賢くなったという自負がある。中途半端にケチったりして思い通りにならず、違う美容室に行き直すなら、最初から第一希望の店に行って、理想のスタイルの写真を見せるのが一番なのだ。

人気のあるホステスさんが言っていたが、接客のプロなら、どんなに会話に困っても、お客さんが口にするまで絶対に仕事について聞かないらしい。「そんな日常の話を、お客さんはここでは求めてない」と断言していた。腕のいい美容師さんもまた然り、気の利いた一言はもちろん「余計なことを言わない」能力がすごい。

基本、重く閉じている私の心の扉は、カウンセリングが終わる頃には、その美容師さんの強くもなく、かといって弱くもない巧みなノックにより気付くと全開になっていて、友人のこと家族のこと、親友にも話してなかったのに、最近シルバニアファミリーにハマっていることまでペラとペラとご陽気に話していた。

また技術が高い美容室というのは、アシスタントの子がとにかくしっかりしている。

専門学校を卒業してすぐであろう、20歳そこらの「〇〇星からやってきました」と言い出してもおかしくないような金髪の男の子が、「失礼致します」とか「大変お待たせ致しました」と、丹田に力を入れて発する奇妙さはこういうサロンでしか見られない。

海外セレブのような細かいバイヤーレージュを入れるために、これでもかというくらい細かくブリーチをしていく。時間にして4時間くらいかかったが、おかげでそれほど疲労も感じなかった。

しかし、「ああ、この人たちの技術により新しい自分に出会えるのか…」なんて期待していた心をギュッと拗られるように、出来上がりは、それはそれはひどいものだった。

色が抜けきらないオレンジがかったままのブリーチ、その上から入れたこだわりのベージュのカラーは一体いずこ、自然な立体感とかハイライトなんて言ったらもはやギャグでしかない、市販のブリーチ剤で鏡を見ずに仕上げたような“まだら”の極み。

「あれ? オーダーなんでしたっけ? 高校デビューでしたっけ?」
顔に出さないように必死だった。

なぜか自信満々の表参道のカリスマを前に、思ってたのと違いすぎると言い出せない。なにせ、私はここで楽しく過ごしすぎた。いつもよりお金も時間もかけて、何も手に入らず「あたいは一体何歳まで“勉強”するの?」と情けなくなった。

問題は、数日後に控えた撮影である。もはや海外セレブのようじゃなくていい、とにかく人前に出れる髪型にしたい。元の黒髪に戻れるなら万々歳だ。

そこで、「それなら俺の行ってる美容室を紹介してあげるよ」と旦那に紹介されたのが、¥1,000カットに似た面持ちの、とにかく破格でカラーをしてくれるチェーン店だった。初回は¥1,650で髪の毛を染めてくれるらしい。ホームページをみると「白髪染め」と「おしゃれ染め」があり、それぞれ15種類くらいのスタンダードなカラーが載っていた。

「最初に券売機でお金を払うから、千円札と小銭を用意していかないとだめだよ」という彼のアドバイスは、とても美容室の話とは思えない。

しかし、今回の件で料金や店の評判、実績はまるで当てにならないことを私は学んだのだ。恥ずかしげもなく記されている「おしゃれ」に手が震えながら、次の日の朝一で予約を入れた。

スーパーなどが入るビルの一角で、気のいい50代くらいの女性が、「そら大変だったわな、おばちゃんならその場で言うけどな。だっておばちゃんやもん!」と笑いながら「おしゃれ染め」の一番暗い色を薦めてくれた。

ひっきりなしにくるお客さんに対応するべく、とにかく手際がよい。ものの40分でオーダー通りの自然な黒にしてくれた。

カラー専門店の名の通り、染めて洗い流してもらったあとはセルフでドライヤーをして帰る衝撃はあったが、なにせ2日前にブリーチをしたと思えないほど艶がある。ムラもない。(2週間経った今でも色落ちもない)

安いから雑な材料を使っているわけではないのだ。回転がよく、不必要な人件費を削っているからこそいいものを提供できる。だからといって接客が悪いわけでもない。店にいる間、おばちゃんは絶え間なく関西弁で私を楽しませてくれ、最後まで仕事について聞いてくることはなかった。客層も勝手に50代〜60代の男性を想像してたが、20代から幅広い層の女性がみなツヤツヤの髪で帰っていく。

ここまでの勉強代は痛いが、今後ここに通うことを考えると毎月かなりの額が浮くことになる。

「まだまだ知らないことがいっぱいあるなあ」と、価値観ごとひっくり返されるような出来事だった。

最後に
“髪の毛”とかけまして
“安いけどいいお店”と解きます
その心はどちらも“上手に理容(利用)したい”でしょう。

今日も女たちに幸せが訪れますように。

紺野ぶるまの【奥歯に女が詰まってる】をもっと読む。

TEXT=紺野ぶるま

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