日ごろから“言葉”についてあれこれと思いを巡らせている壇蜜さんの連載『今更言葉で、イマをサラッと』第49回目。言葉選びと言葉遣いが、深く、楽しくなる。そして役に立つお話。どうぞお楽しみください！
その49 『ロックですね』
｢ロックに生きてますね」や「それはなかなかロックだね」と言われたとする。とりあえずポジティブな言われ方をされたと受け入れるようにしてはいるが、ロックって何だ？と心の中でいつも思っている。タフ（体力、精神力がある）ですね、とか、クール（知的、格好いい）ですね、と言われたら何となくピンとはくるが、ロックと言われてもなかなかいい解釈ができない。グラビアが際どかったり、映画でなかなか過激なヌードを披露している話をすると、ロックですね！と言われたこともある。ロックは肌の露出が多かったら使われるのか？としばし悩んだ。
ロックの歴史は古く複雑だ。用語的には1960年代後半から使用され始めたようだが、ロックの始祖的なフォークミュージックやブルースなどのジャンルはもっと以前の時代に既に発生しているし、ここからがロックですという線引きも様々な説があってこれだ！と決めるのは難しい。反乱や哲学、性や政治の問題などテーマも豊かだ。労働者階級発祥ともいわれているため、どこかこれまでの社会でいいのかい？反発したい気持ちがあるよ、というエネルギーを感じる。しかし反骨精神だけでは表現できない、どこか夢や希望を感じさせる節もある。だからこそ、ロックですね、が分からない。使用した相手もそこまで深く考えてはいないと思うのだが。
ざっくりとした意味として考えるなら、「型破りだが自分を信じて強くある」と感じたときに使えばいいのかもしれない。しかし言われることは構わないが、あまりにもざっくりとしていそうだし、突きつめたら迷子になりそうなので私からは「ロックですね」とは言わないようにしているのが正直なところだ。万が一言った相手がロックに凄く詳しい方だったら、突っ込まれても困るし。
ちなみに、クールというのは抽象的だが複雑な歴史はなさそうなのでたまに使う。そして不思議なのはクールとホットの関係だ。クールもホットも、「格好いい」に用いられやすく意味が同じ場合もある。あの子はクール、あの子はホット…対極にあるのに、どちらも格好いいというほめ言葉なのだ。
