彼女の作品を観て、泣いたり笑ったり、自分という存在を見直したり…。私たちにとって、長澤まさみさんは本物のエンターテイナー。心を豊かにしてくれる、エンターテインメントの魅力を長澤さんに伺いました。
自分の心しだいで、私たちは何にでも変わっていくことができる
12歳でオーディションでグランプリに選ばれ、エンターテインメントの世界へ。同年公開の『クロスファイア』(2000年)で映画デビュー。表現者として仕事を始めて、21年目となる長澤まさみさん。
「舞台を観るのが好きな幼なじみがいたり、テレビや映画を観るのが好きな人が近くにいたり、幼いころからエンタメの世界が身近にある環境で育ちました。まだ子供だったので、仕事をスタートしたときに明確な目標はなかったけれども、オーディションに受かった2週間後には映画の撮影現場にいました。スタッフさんたちがとても優しく、はじめましての新参者にも温かかった。まだ小学生だったので、母と現場に行っていたのですが、『大丈夫、緊張しない?』という母の問いかけに『大丈夫』って言っていたのをすごくよく覚えています(笑)」
その3年後には、映画『ロボコン』(’03年)で映画初主演を果たし、第27回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。『世界の中心で、愛をさけぶ』(’04年)では白血病のヒロインを演じ自らスキンヘッドへ。’05年にドラマ「ドラゴン桜」、NHK大河ドラマ「功名が辻」(’06年)へ出演するなど、他の追随を許さない勢いで駆け上がった長澤さん。
「私にとって作品はアルバムみたいなもの。たまに過去の作品を観ると、反省点しか出てこない。でもやっぱり『このときにしかできなかったな』という気持ちになります。なんですかね…怖いもの知らずな感じっていうのかな。当時、状況を理解していなくても、わかっていなくても、演技してそこに立っている自分がいたと考えると『恐ろしい…』って思うこともあるし。そのときの自分のパワーがなんかある意味、神がかっているなって思います。『なんでこんなふうにできるんだろう』って(笑)。今、冷静に考えれば不思議に思うことでさえも、疑うことなくその場に立っていた自分がいるのは、度胸があったのかな(笑)」
長澤まさみが演じるダー子の魅力
’18年に長澤さんは、“ダー子”と出会う。テレビドラマから始まった「コンフィデンスマンJP」は、その後シリーズ化され、スペシャルドラマや映画となった。昨年公開された2作目の『コンフィデンスマンJP プリンセス編』は、247万人を動員する大ヒットを記録。’22年1月には、3作目となる『コンフィデンスマンJP 英雄編』が公開される。第1弾は香港、第2弾ではマレーシアのランカウイ島、そして第3弾の舞台は、地中海に浮かぶ世界遺産の島・マルタ島。ついに、コンフィデンスマンたちがヨーロッパへ進出!
「次はぜひ、宇宙に行きたいですね、宇宙空間で騙し合いたい(笑)。今回は、ダー子とボクちゃん、リチャードの3人の真剣勝負なんです。詐欺師生命を懸けて、3人のうちの誰が勝つか――だから、いつもよりシリアスな場面が多く、誰が本心を語っているかというところが見どころでもあります。コンフィデンスマンの素性も明かされ、そこも今回の面白さになっていると思います」
ダー子の決め台詞、「私たちは何にでもなれる」という言葉。とびきりの笑顔で語られる彼女のこの台詞は、私たちにいつもワクワクや勇気を与えてくれる。
「日常生活のなかで、自分の弱点みたいなものってあるじゃないですか。そういうものを客観的に冷静に見つめることができれば、“何にでも変わっていくことはできる”と私は思っています。怒らず冷静に――というのが、今の私のテーマなのかもしれない。自分とは違う考えや自分のキャパを超えた物事にぶち当たったとき、『やっぱり無理』『そういうことじゃないのに…』など、感情的に否定的な気持ちが生まれてくると、本当はすぐ近くにあるはずの答えが見えなくなって、答えを探すまですごく時間がかかるような気がするんです。柔軟でいられるために、冷静であることが一番大切。一旦冷静になって、俯瞰で自分自身を見つめて精神をコントロールすることは、すごく重要だなと思います。自分の可能性は自分で引き出すことができる。それが人間の良さだと思っているから、そういうところにはちゃんと向き合いたいですね」
“何にでもなれる”ダー子の強さと明るさ。これは現代女性の生き方にもリンクする。
「この間、友達から『女性がメインの作品で、その女性が悲しい過去や苦しい過去を背負ってきていない役柄って、とても少なかった』と言われたんです。ダー子みたいに底抜けに明るくて、なんか過去にあったんじゃないか…と思わせつつ、そうじゃなくて全部ダー子の手のひらの内でみんなが彼女に翻弄されていく。ダー子にみんなが尻尾を掴まれているような状態。それは、このダー子という存在が明るくて、前向きで、パワーがみなぎっているから。そういう女性像が今までメインキャラクターで存在しなかった。もちろん女性に限らずですが、ダー子は今の時代に合った『こうありたい』女性像のように感じます。女性はみんながみんな大変なわけではない。そんなカッコいい女性像が、ダー子にはあるのではないかな。無敵ですよね。誰の力も借りずに立っている感じもカッコいいし。女性って何でも母性みたいなものをこじつけられて、片付けられちゃうところがあるけれども、そんなもんじゃないパワーがみなぎっているというか(笑)」
エンターテインメントは心を豊かに、自分を拡大する
最後に、長澤さんにとってエンターテイナーとは? エンターテインメントとは?
「自分のことをあまり表現者だと思ったことはないのですが、エンターテイナーには憧れますよね。やっぱり、みんなを楽しませる人は何かいいことをしているみたいで、いいじゃないですか(笑)。みんなに楽しんでもらいたいですし、面白がってもらいたい。この映画もそのなかのひとつになればいいと思っています。エンターテインメントは、自分の想像力を豊かにしてくれるもの。いろんなものに触れて刺激を受けて、自分の想像力を伸ばし、膨らませたいですね。それに、今は自分の“推し”がある時代で、自分の好きなものに好きなだけ没頭できるから、恵まれた時代だとも思います。ちなみに私の推しはニューヨークさん! ニューヨークのコントを1本観てから寝るのが日課です。それはもう、最高にハッピーです(笑)」
映画『コンフィデンスマンJP 英雄編』
ダー子(長澤まさみ)×ボクちゃん(東出昌大)×リチャード(小日向文世)による「コンフィデンスマン JP」劇場版シリーズ第3弾が公開! 3人がコンフィデンスマン=信用詐欺師に扮し、欲望にまみれた人間たちから大金を騙しとる痛快エンターテインメントコメディ。予測不能な騙し合いバトルの舞台となるのは、地中海に浮かぶ世界遺産の島・マルタ島。ダー子たちが狙う“オサカナ”を演じるのは、城田優と生田絵梨花。個性豊かな豪華キャストが繰り広げる世界規模の騙し合いバトルから目が離せない。1月14日より全国ロードショー。
長澤まさみ(ながさわまさみ)
1987年6月3日生まれ、静岡県出身。2000年「東宝シンデレラ」オーディションでグランプリ受賞。第63回ブルーリボン賞では映画『MOTHER マザー』『コンフィデンスマンJPプリンセス編』での演技が評価され、史上初の2年連続主演女優賞の快挙を達成した。