ひとクセある役柄でも、不思議と魅力的に映る愛されキャラに変えてしまう。ドラマ、映画、舞台…2021年に入ってからも続けて話題作に出演し、役者として成長を続けている岡田将生さん。そんな岡田さんが遭遇した、心地いい出来事とは?
久しぶりに乗ったバスで…
ドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」、映画『Arc アーク』など話題作への出演が続いている岡田将生さん。
「この前、久々にバスに乗ったんです。きっと、普段から決まった時間帯でそのバスに乗っていらっしゃる方もいるなか、僕はイレギュラーに乗ったんですが、一番後ろの席に座っていた中学生の男の子の隣に僕も座ったんです。しばらくしてその男の子が降りるときに、後ろのドアの前から運転手さんに『ありがとうございました』と頭を下げて降りて行ったのを見て感動して。思わず、ちゃんと生きようと思いました(笑)。もちろんそのあと僕も、彼を見習って、お礼は言わないまでも頭を下げて降りました。コロナ禍においてそういう日常を目にすることが少なかったのもあり、温かい気持ちになれたすごくいい経験でした」
最近、身近に感じた“ちょっといいコト”をたずねると、表情を緩めてそう話してくれた岡田さん。人と人との関わり方やつながりの大切さを実感している今、「人間は人間としかバランスが取れないと感じた」という岡田さんの言葉が印象的だったのは、公開中の映画『ドライブ・マイ・カー』について伺っているとき。
「この作品の台本を読ませていただきすぐ参加したいと思いました。そして、濱口監督といつかお仕事したいと願っていたのでお話をいただいたときにとても興奮したのを覚えています。先日、完成した作品を観て、自分も出ているというのに、随所で心をえぐられて本当に泣きました。人間は喜びと悲しみが常に共存していて、そのバランスが取れなくなると傾いてしまう。そしてそのバランスは人間同士じゃないと保てないんだと気付かされました」
セリフの間が生み出すリズムは音楽を奏でているように心地いい
第74回カンヌ国際映画祭では脚本賞ほか4冠を獲得した村上春樹原作、濱口竜介監督の作品。岡田さんいわく、役者人生で一番つかみどころがなく、演じるのに難しい高槻役に苦しんだそう。
「どれも同じ高槻だけど、それぞれのシーンでは違う人物に見せようと濱口監督と話していたんですが、高槻という人間の軸をあえて作らなかっただけに、僕自身も最後まで彼のことがわからなかった。役者がよく『監督からOKもらえるとうれしい』と言うように僕もそうなんですが、でもそのなかでも濱口監督のOKはすごくうれしかったですね。というのも、難しい役柄だったのはもちろん、この現場は撮影スタイルが面白くて。例えば現場に入ったらまず必要なキャストだけで芝居をしているなかに、少しずつスタッフが入りセッティングをしてそのまま本番がスタートする。つまりテストの時間がないんです。監督は役者が芝居に集中できない環境は絶対に作らず、でも気が付いたら本番になっているという緊張感がすごくバランスがよかったんですよね。また、セリフとセリフの間の呼吸を大事にしていて、ここでひと間、ここではふた間と決めて全員の呼吸を合わせながら演じることで、その空間にまるで音楽が生まれるようにも感じて。この不思議な感覚は、この組ならではのものなんだと思います」
映画『ドライブ・マイ・カー』
俳優であり演出家の家福が愛する妻・音が、秘密を残したまま突然この世を去ってしまう。2年後、広島での演劇祭に愛車で向かった家福は、ドライバーのみさきと出会い、かつて音から紹介された俳優の高槻と再会する。
監督・脚本/濱口竜介
出演/西島秀俊、三浦透子、霧島れいか、岡田将生
原作/村上春樹『ドライブ・マイ・カー』(短編小説集『女のいない男たち』所収/文春文庫)
©2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会
岡田将生(おかだまさき)
1989年8月15日生まれ、東京都出身。出演映画『CUBE』が2021年10月22日より公開、さらに12月には主演舞台『ガラスの動物園』が上演予定。