「凶悪」「孤狼の血」などで知られる白石和彌監督の最新作「ひとよ」が11/8(金)より公開。ある“一夜(ひとよ)”の出来事によって壊れた家族の人生、そして事件後に別々の道を歩んできた三兄妹が15年ぶりに母と再会を果たす――現在と過去とを交錯させながら感動のヒューマンドラマが描かれていきます。
今回は本作で、次男・雄二を演じた主演の佐藤健さん、そして白石和彌監督のおふたりへのインタビュー続編をお届けします。
いつのまにかその役になっている
芝居について「ドキュメンタリー的なアプローチの仕方をしてきた」と話していた佐藤さん。さまざまな苦悩と葛藤を抱えた雄二という役を、どのように解釈していったのでしょう。
佐藤 作品を問わず、理屈ではなく感覚で演じているところがあります。役について考えている時間そのものも、役づくりだと思っているので。だから一種の洗脳といえるのかもしれませんが、今回であれば雄二のことをずっと考えている。台本のことでも、白石さんのことでも、作品にまつわることを考えているうちに、自分でも無意識下でその役に染まっていき、いつのまにか勝手に雄二になっていました。
雄二の複雑な気持ちを、100%理解するのは難しい。現場に入って感じられるものがあるだろうと思っていたので、監督に相談したり、意見を求めたりすることはあまりなかったかもしれません。
ただ僕は本当は(佐々木)蔵之介さんに飛び蹴り(するシーン)はしたくなかったんですけど、そこは致し方なく監督に従いました・・・(笑)。
白石 台本をつくっているのは僕らだから、なんとなく画が想像できますよね。でもテストで役者さんたちに動いてもらうと、僕らが想像していなかった解釈を始めたり、なるほどそういう解釈があって、それがこう繋(つな)がっていったりしたらより良いよね、という発見がたくさんあります。
役者さんの表情を見ながら、距離感など、いろいろなものを感じながらできていくシーンがあって、あとはその感動をどう切り取るかです。彼らはあんなに熱量があるのに、なんで俺は切り取れていないんだ、と毎回死にたくなりますけど(笑)。
感動が生み出される瞬間
役者たちの熱量を切り取るために、重要なシーンとその前のシーンの間の部分もカメラを回していると話す白石監督。そうすると本当に撮りたいシーンが活きてくることがあるのだそう。
白石 例えばこの取材が重要なシーンだとしたら、部屋に入るまでを撮影してから会話を撮る、というようなことをします。今回の作品はあまり一人に焦点を当てた映画ではなかったので難しい部分もあったのですが、それをやることで大事なシーンが変わってきたりするんです。
編集でカットするのにどうして撮るのかと、スタッフからよく怒られることがあったのですが、今村昌平監督も同じようなことをしていたと先日聞いて、自分のやっていることは間違っていなかったんだなと感じました。毎回試行錯誤なので、10年後には変わっているかもしれないですけどね。
佐藤 役づくりとして、どのシーンにも意味があると思っています。だから監督がシーンとシーンの間を撮影することも、仮にカットされたとしても僕らの血肉にはなっていると思います。
現場が家族になった瞬間
三兄妹が雑談するシーンで、母がアダルト雑誌を万引きしたと知り、それまで斜に構えていた雄二が初めて笑うんです。距離感と間から生まれたものだと思うのですが、三兄妹の関係性を見ていて「何もなければ、こんな風にたわいもない会話を交わしている家族なんだろうな」とか、いろいろなことが想像できて本当の兄妹を見ているかのように、しっくりくる時間がありました。
佐藤 僕も「ああ、今すごくしっくりきた」と思いました。
白石 健くんたちと共有できたことも嬉しかったですね。その流れで「じゃあ飲みに行く?」って言うんだけど、「あ、まだ、はい」ってなんとなく散っていく。みんな飲みに行きたい気持ちだけはあるんだけど、こっちももう1シーンあったわ、みたいな感じでした(笑)。
『ひとよ』
【監督】白石和彌
【出演】佐藤健、鈴木亮平、松岡茉優、佐々木蔵之介・田中裕子ほか
11月8日(金) 全国ロードショー
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© 2019「ひとよ」製作委員会