「凶悪」「孤狼の血」などで知られる白石和彌監督の最新作「ひとよ」が11/8(金)より公開。ある“一夜(ひとよ)”の出来事によって壊れた家族の人生、そして事件後に別々の道を歩んできた三兄妹が15年ぶりに母と再会を果たす――現在と過去とを交錯させながら感動のヒューマンドラマが描かれています。
今回は本作で、次男・雄二を演じた主演の佐藤健さん、そして白石和彌監督のおふたりにお話を伺いました。
意識せずとも、自然と“家族”になれた
これまで犯罪者・警察・映画スタッフなどさまざまな立場にある人間の関係を、“疑似家族”的な関係として描いてきた白石監督が今回描いたのは、血縁に縛られた家族関係。
白石監督(以下、白石)家族って面倒臭いなと思いました。どんな状況であっても関係性は切れないし、ずっと向き合わざるを得ない。でも親になった僕としてわかるのは無償の愛をくれる存在でもあるということ。切りたくても切れない関係だからこそ、そんな心の葛藤のループだと思います。
今まで疑似家族的な関係を描いてきて、そこにはどこかに利益関係があったけれど、そうではないところが大変だと思いました。
佐藤さん(以下、佐藤)恋愛でもなく、友情でもない、兄妹という関係を演じるのは初めてだったので新鮮で楽しかったです。“家族”なのだから、共演者の方々に対しても気を遣わないようにしました。でも現場でそれを無理に意識しなくても自然な関係が築けていけたのは、共演者の皆様のおかげです。
監督の作品が毎回面白くなる理由がわかる
数々の国内映画賞を総なめにしてきた白石監督。今俳優たちが最も出演を熱望する映画監督であり、佐藤さんも“白石組”への参加を熱望していたひとり。初参加が叶った『ひとよ』のジャパンプレミアでは「本作のお話がくる前から、もし白石組に参加したらこういう役作りをしていこう、と一人で想像していた」と告白していました。
佐藤 本当にいい現場でした。映画を作るのがものすごく上手なんだと思います。「あれ、もう終わりですか?」「ちゃんと撮れてますか?」「まだまだ出来ますよ」とこちらが心配になるくらい、良い意味で達成感を感じなかったです。でも完成した作品を観ると素晴らしい。作品が毎回面白くなる理由がわかった気がします。白石監督は作品数が多いですが(2018年以降、監督作品を年3本以上公開する多作ぶり)、監督の作品ならいくらでもやりたいです。
白石 『ひとよ』は雄二の映画でもあり、家族の映画でもあります。兄のパートがあったり、妹と母のパートがあったり、佐々木蔵之介さん演じるタクシードライバーの堂下のパートがあったりと良い形で群像劇なんです。だからそれぞれの役者が担当する時間が限られているので、今度は2時間ずっと佐藤健を撮らないとこちらもまだまだやり切れていない部分がありますね。
家族には素直になれない
佐藤さん演じる大衆雑誌で働くフリーライター、雄二は東京で少年時代に抱いていた「小説家になる」という夢にはほど遠い生活を送っています。複雑な感情を抱える雄二を演じた佐藤さんは、雄二に共感できたと話します。
白石 雄二という人間は、母親に冷たい言動を取るのだけれど、実は家族のことや母親が残した希望や、想いに応えきれていない自分に怒りを持っている。クールに見えて一番熱いものを持っているんです。
その姿に、クールに見えていつも熱く演じている佐藤健という役者を当てはめたら化学反応が起こるんじゃないかという期待のもと、オファーさせていただきました。だから僕が何かを彼から引き出すということはなかったですし、彼におまかせでしたね。
佐藤 強がってしまうし、カッコつけてしまう。特に家族に対して素直になれないところがとても共感できました。
雄二は殺人を犯した母親を許せたわけではないと思います。許せないけど、自分たちのためにやったことはどこかで理解していて、その感情をどこにぶつけたらいいかわからず葛藤している状態だったと思う。・・・僕自身は許せないものは許せないまま、ですね(笑)。
白石 タクシー同士をクラッシュさせるシーンがあります。「他人であっても家族であっても、一度クラッシュさせないと本当の想いは伝えられないのではないか」という問いかけでもあるのですが、プロデューサーに怒られながらわざわざあのシーンを作ったにもかかわらず、僕自身が家族とクラッシュできていないです(笑)。
失敗や反省することが溜まっていくのが人生だと思うので、関係をより良くするには勇気を持って一度クラッシュすることが重要だと思いますが、そこに踏み出すのがなかなか難しいですよね。
『ひとよ』
【監督】白石和彌
【出演】佐藤健、鈴木亮平、松岡茉優、佐々木蔵之介・田中裕子ほか
11月8日(金) 全国ロードショー
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© 2019「ひとよ」製作委員会