いよいよ2019年10月4日に映画『蜜蜂と遠雷』が公開。この話題作でピアニストを演じた俳優の松岡茉優さんと松坂桃李さん。ともに天からのギフト=芝居の才能を授かったふたりが、“天才”について独自の定義を語ってくれました。
芝居でもピアノが感情のはけ口になっていた
――映画『蜜蜂と遠雷』で圧巻だったのはやはりピアノの演奏シーン。完成された「ピアニスト」を演じるため、どれくらいの練習を?
松岡 実は劇中で観られる演奏シーンは実質1ヵ月ぐらいの練習時間で撮ったんですよ。
松坂 やはり大変でしたね(笑)。
松岡 ただ、私の場合、(コンクールの)本戦で弾いたプロコフィエフの『ピアノ協奏曲3番』は世界中で何万人もの人たちが演奏している有名な曲なので参考になる資料映像がたくさんありました。その点、松坂さんはメインで演奏する楽曲がオリジナル曲で、演奏パターンの映像が皆無だから、私より数段大変だったと思います。
松坂 いやいや、僕はもう先生が弾いてくださった映像を観て、ひたすらオリジナル曲を頭と体に染み込ませる作業に専念しただけです。
――今作は少ないセリフで心の動きを表現する描写が多く、それぞれの“無言の演技”も印象的でした。
松岡 セリフが少ないことに気付いていました?
松坂 いや、撮影しているときはわからなかった。「少ない部類に入るのかな?」って思うぐらいで・・・。
松岡 私もセリフ量を全く意識していなかったというか。今回はそれぞれ感情のはけ口がピアノだったから、弾くことで喋っているような感覚になっていたのかもしれないです。
松坂 それは言えてますね。あとセリフを覚えるよりピアノを覚えることに必死でした。なので、ほかのことはあんまり気にしていられなかったんですよ(笑)。
――物語の舞台はピアノのコンクール。緊張感のあるシーンに挑むとき、それぞれ“集中するためのコツ”はありますか?
松岡 私は目が悪いんですけど、亜夜が最初にコンクールに挑むシーンではコンタクトを外して、周りが見えないようにしました。この方法はたまにやっていて集中しなきゃいけない現場ではわざと外すんです。
松坂 わかる! 僕も余計な視覚情報が入ってこないよう、コンタクトは場に合わせて取り外します。あと、緊張する撮影の前日は成功イメージを3回以上して早めに寝る(笑)。
松岡 アスリートっぽい!
松坂 お芝居がすごくうまくいって、「OK! 今日はこのシーンで終わり!」って監督の声が聞こえるとこまで妄想するんです。そして、無心になって現場に入る。
松岡 でも、成功イメージがうまくいかなかった場合の絶望を考えると怖くなりません?
松坂 その不安が消えるぐらい妄想を繰り返して、その世界観に浸るんですよ。そうするとプラスイメージに引っ張られて、あっという間に撮影が終わることが多い。だから自分を騙す感覚に近いかも。
松岡 自分を騙すという意味では、私も数年前まで母の手紙をお守り代わりにしていました。10歳のときに学校で「二分の一成人式」があって。そこでもらった手紙で「とにかくあなたを愛している」って私を全面的に肯定してくれる内容なんですね(笑)。大事なシーンの前は「あれができない、これもダメ」って自分を減点法で考えて気分が滅入りがちだから、これを読んで自信を持つようにしていました。
松坂 それ、僕の妄想よりずっといい話じゃないですか(笑)。
――ふたりが演じた亜夜と明石は天才型と努力型という対比で描かれていますが、その違い、つまり「才能」って何だと思いますか?
松岡 この作品で言うと天才は飛び抜けた才能を持ち、しかもそれを持った自分以外の天才に対しても「すごいね」って素直に敬える人。そこが努力型との違いなのかなと思います。ただ、私は例えば常に元気な人とかも一種の天才だと思っていて。いつも明るくてへこたれない人とか、たまにいますよね? 何があっても本当に元気でいられるとしたら、それはそれですごい才能。そういう人のそばにいると、こっちまで悩んでいることがバカバカしくなってくるから不思議ですよね。
松坂 僕は純粋に何かを好きになる気持ちが才能に繋がるのかなと。いろんなストレスとか思惑とか、余計なものをいっさい排除した状態で「私はこれが好きです」って言えるものって、案外ないじゃないですか。でも、理屈抜きで「なんだかわからないけど好きだからもっと知りたい」って思える無心の情熱というか。それが積み重なってある種の才能になっていく気がします。
松岡茉優(まつおかまゆ)
1995年2月16日生まれ、東京都出身。2008年デビュー。初主演を果たした映画『勝手にふるえてろ』『万引き家族』などで数々の賞を受賞。今年11月には映画『ひとよ』が公開予定。
松坂桃李(まつざかとおり)
1988年10月17日生まれ、神奈川県出身。2009年に俳優デビュー。主演映画『不能犯』『居眠り磐音』をはじめ数々の作品に出演。公開中の映画『HELLO WORLD』ではボイスキャストを務める。
映画『蜜蜂と遠雷』は2019年10月4日(金)より公開!
史上初の直木賞&本屋大賞をW受賞した恩田陸の小説『蜜蜂と遠雷』を映画化。国際ピアノコンクールを舞台に亜夜(松岡茉優)、明石(松坂桃李)、マサル(森崎ウィン)、塵(鈴鹿央士)の4人の天才ピアニストたちの挑戦、才能、運命を描いていく。今週末は、ぜひ映画館へ!
『蜜蜂と遠雷』
出演/松岡茉優、松坂桃李、森崎ウィン、鈴鹿央士(新人)
監督・脚本/石川慶
原作/恩田陸『蜜蜂と遠雷』(幻冬舎)
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