1月12日公開の映画『伊藤くん A to E』で、超モンスター級の“痛男(いたお)=伊藤くん”に無様(ぶざま)に翻弄される崖っぷち脚本家を演じる、木村文乃さんにインタビュー。映画の見どころとともに、ご自身の歩みについても語っていただきました。
どんなに無様でも、それを否定できる人なんていない
――まずは出演が決まったときの感想を教えてください。
「まず、廣木監督からお話をいただけたことがとてもうれしくて。実は以前一緒にお仕事をさせていただいたときに、自分のふがいなさを感じたまま終わってしまっていたので、また声をかけていただけたうれしさと、さあやるぞ!という気持ちで、撮影に臨みました」
――役作りにおいて、意識されたことはありますか?
「廣木監督は脚本作りから関わっていらっしゃるので、ご自身のなかに“こうしたい”っていうイメージが明確にあるんです。私はそれを信じていたので、監督がどうしてほしいかということをどれだけ汲み取って、表現できるかどうかだと考えていました」
――莉桜(木村さんが演じる役)は腹にイチモツ抱えた”毒女”。共感できる部分はありましたか?
「共感というと少し違うかもしれませんが、ある重要なシーンを演じながら、莉桜の歩みには、私がここにたどりつくまでの道のりと似ている部分があると感じました。自分には味方がいない、信じたら裏切られるから信じない、と思いこんで、全部自分だけでやろうとしている。そんな人間が変わっていくシーンが、好きでしたね」
――今までのキャリアにおいて、苦しまれた時期もあったということでしょうか。
「ありましたね。今も任せていただく役が大きくなるにつれて、数字とか責任感とか、これまでは気にしていなかったものが覆いかぶさってくるように感じていて。それを楽しいといえるほどの力量は今の私にはないですし、ひたすら自分にハッパをかけていくしかないんです。その作業は、決して楽なものではありません」
――映画のなかでは「無様」という言葉で表現されてますが・・・
「常に自分のことも、そう思っています。例えば芸能界を見渡すと、なんて細い人たちばかりなんだろう、隣に並ぶなんて嫌だ、ドレスなんて着たくない、脚を出せない・・・そういうふうに感じる瞬間は、我ながらすごく無様だなと思います。それなのに、同じステージに立とうとして、ダサいくらいにもがいている。でも、たとえダサくても、求めていただける限り全力でやるのが筋だなと思って、なんとかやっています」
――くじけそうになることはありませんか?
「しょっちゅうあります。できないことが多くて。でも、そうやって悩んでいても前に進めないということは、20代前半までで嫌というほど学んだので、悩むくらいならダメなところが気にならなくなるくらいに頑張りたいし、いいところをもっと特別なものにするために頑張りたい。結局、そういう世界に身をおいてしまったんだなと思います」
――木村さんがそういうふうに変わることができたきっかけは?
「そうですね・・・今の事務所の社長に出会ったことだと思います。それまではかたくなに人を拒絶してきた私が、初めて信じようと思えた相手が社長。その出会いをきっかけに、芝居に対する向き合い方や、人とのコミュニケーションの取り方が変わっていきました」
――この映画も、観た人が“変わる”きっかけになるかもしれません。
「でももし登場人物に共感して、自分もそうだなとか、こんなふうに見えてしまっているのかなと思ったとしても、それをダメなことだとは思わないでほしいです。そのままでいいという考え方だってあるし、自分が一番気持ちいい状態でいることも、決して悪いことではないと思います。
私は完成したこの作品を観て、どんなにダメな人のことでも、それを否定できる立場の人間って絶対にいないなと感じました。どのキャラクターにも、誰しも共感してしまうところがあると思います。その共感がある限り、伊藤くんのことを”痛男”と言うことも、それぞれの女性たちを”ダメ女”と言うことも、本当はできないんじゃないでしょうか」
映画『伊藤くん A to E』1月12日(金)より全国ロードショー!
【出演】岡田将生、 木村文乃、 佐々木希、 志田未来、 池田エライザ、 夏帆 ほか
【監督】廣木隆一
【原作】柚木麻子「伊藤くん A to E」(幻冬舎文庫)
【脚本】青塚美穂
【主題歌】androp「Joker」(image world)
http://www.ito-kun.jp/