さまざまな経験、体験をしてきた作詞家 小竹正人さんのGINGER WEB連載。豊富なキャリアを通して、今だからわかったこと、気付いたこと、そして身の回りに起きた出来事をここだけに綴っていきます。【連載/小竹正人の『泥の舟を漕いできました』】
第54回「空を見上げる顔マニア」

我が家のベランダにレモンの木がある。もう10年以上になる。
何度か「すす病(葉っぱが真っ黒になる病気)」になったが、その際には葉や枝を自己流で(かなり雑に)剪定して復活させ、枯れることなく成長し続けている。
毎年花を咲かせ(めちゃくちゃいい匂い)、実を結び、無農薬のレモンがいつもベランダにあるのが自慢だ(全く食さないし使わないけど)。
夏の始まりと夏の終わりにそのレモンの木にアゲハ蝶が産卵する。
見落としてしまいそうに小さな卵が、そのうち黒い芋虫になり、それが脱皮して青虫になる。レモンの木を育て始めた頃は、葉っぱにわんさか蠢く青虫が不気味で鳥肌だったのだが、今から10年近く前、ピコが幼いときに情操教育のためその青虫を飼育してみることにした。
ネットで「アゲハ蝶の幼虫の飼い方」を調べ、100均で買ったプラスチックの飼育ケースに青虫とレモンの葉っぱを入れる。
信じられないくらいの速さで葉っぱを食べ、信じられないくらい大量の糞をするので、途中でめげそうになったが、飼育しているうちにだんだんとかわいくなってくるから面白い。
フードファイターのように食べているレモンの葉が、半日経っても全く減らなくなったら、それは青虫がサナギになる準備に入った合図。突然、体を縮め、細い糸で自分の体を固定して、全く動かなくなる。その姿がクリオネにそっくりで愛らしい。
サナギになって2週間ほどして、ふと気づくと羽化している。あんなに気持ち悪かった青虫が、艶やかに光り輝く黒い羽(または黄色い羽)のアゲハ蝶になっている。不思議な不思議なメタモルフォーゼ。
蝶になったら、数時間後には外に放してあげなければならない。狭いケースに入れておくと、パタパタとはためくあまり羽がボロボロになってしまうから。
羽化したらすぐにピコに知らせ、2人でベランダに出て、飼育ケースの蓋を開けた。
最初はヨロヨロと、やがてしっかりと飛んでいく。初めてその姿を見たときには本気で感動。
あれから数年、私はほぼ毎夏、アゲハ蝶の幼虫を飼育している。
ピコの弟のピチャオも興味津々で観察して、今年の夏休みの絵日記には飼育の一部始終を描いていた。そのまた下の弟のミニロは、姉弟の中でももっとも青虫に夢中になり、私にではなく、青虫に会うためだけにせっせと我が家に足を運んでいた。
さて、無事に羽化して、空に飛び立つアゲハ蝶を見送るとき、ピコもピチャオもミニロも同じような顔をする。驚いたような嬉しいような悲しいような、何ともいえぬいとおしい表情。私は彼らのその顔を見ると、ぎゅゅゅゅゅっと心臓を鷲掴みにされたような気持ちになる。
情操教育などといいながら、今では子どもたちのその表情を見たいがために、私はせっせと青虫を捕まえ、レモンの葉を摘み、飼育に精を出す。ぶっちゃけ、羽化するのを見たいのではなく、羽化したアゲハ蝶が空に飛んでいくのを見送る子どもたちの顔を見たいがために。
ちなみに、打ち上げ花火を見上げているときも、彼らは同じく、あの驚いたような嬉しいような悲しいような表情をする。それを見るのも何よりも大好きな私。「(子どもたちの)空を見上げる顔マニア」といっても過言ではない。
What I saw~今月のオフショット

打合せ中の八木勇征(FANTASTICS)をいきなり激写。普段からあまりにも仲がいいので、スタッフの目を盗んではちょいちょいふざけ合ってしまう私たち。しかし、音楽に関しては本当に真摯に向き合っていて、勇征の成長を頼もしく感じた時間でもありました。

Ed TSUWAKI × 小泉今日子 EXHIBITION「ONCE ON - KK ON STAGE, Ed ON TEE -」へ。Ed TSUWAKIがアートワークをほどこした数々のキョンキョンTシャツ(全て1点もの)や衣装をずらりと展示。Edちゃんが手を加えるだけで、1枚のTシャツがアート作品になっていて驚愕、拍手、感動。

これが今月羽化したナミアゲハ(虫嫌いの方、すいません)。ツヤツヤで神秘的で美しい。飼育ケースから出すと、しばらく身じろぎもせずに木に留まり、やがてフラフラと空に飛んでいった。もちろん子どもたちも私も、飛び立つ様子をジッと見守っていました。
小竹正人(おだけまさと)
作詞家。新潟県出身。EXILE、三代目J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE、E-girls、中島美嘉、小泉今日子など、多数のメジャーアーティストに詞を提供している。著書に『空に住む』『三角のオーロラ』(ともに講談社)、『あの日、あの曲、あの人は』(幻冬舎)、『ラウンドトリップ 往復書簡(共著・片寄涼太)』(新潮社)がある。

