イライラしている、元気がない、笑顔が減った、趣味を楽しめない……お父さんの様子がおかしい? それはもしかしたら「男性更年期障害」のサインかもしれない。家族が知っておきたい、中高年男性の更年期の症状や治療について、マイシティクリニック院長・平澤精一先生に聞いた。
男性更年期障害とは――どんな症状が出る?なりやすい人は?
女性特有の疾患と思われがちな「更年期障害」。最近では中高年男性が症状を訴えるケースが増えているという。
「男性の更年期障害は大きく2つのケースにわけられます。1つはテストステロン(男性ホルモン)の低下が原因で起こる『LOH症候群』、もう1つはホルモン低下を伴わないケース。いずれにせよさまざまな要因が重なり合い、身体的、精神的な症状があらわれます。
女性の更年期障害は、女性ホルモンが低下する45歳から55歳くらいの約10年間に症状があらわれますが、男性のテストステロンの低下はもっとゆるやかで、ストレスや環境の変化、睡眠や運動不足なども影響するので、30代など若い年齢層でも不調が出ることも。なんとなく調子が悪い、だるい、疲れやすいなど、一見すると怠けているようにも見えてしまう症状なので、周囲からの理解が得られにくいという特徴もあります」(平澤先生)
●身体症状の例
- 疲労・倦怠感
- 汗をかきやすい
- 睡眠障害
- 記憶・集中力の低下
- 男性機能の低下
- 頻尿
●精神症状の例
- イライラ
- 落胆
- 不安
- 意欲の低下
- 性欲低下
- うつっぽい
「男性更年期障害で特に多くみられるのが、抑うつなどの精神症状。意欲や気力、集中力が低下し、思うように仕事ができなくなる……その結果、出社できなくなってしまうケースもあります。完璧主義、神経質、真面目、几帳面といった人はなりやすい傾向がありますね」(平澤先生)
男性更年期障害を疑うサインは?家族が気づいてあげることが大事!
男性更年期障害を治さず放置してしまうと、心筋梗塞、脳梗塞、認知症など重大な疾患の原因になることも。自分で気づきにくいからこそ、家族が気づいてあげることが大事。
「身なりを気にしなくなる、今まで好きだったことに興味を示さなくなる、などが男性更年期障害を疑うサインです」(平澤先生)
ほかにも家族が気にかけたいサインは以下の通り。
●家族のための男性更年期障害チェックリスト
□がっちりした体型だったのに、手足が細くなりビール腹になった
□服装や髪型を気にしなくなった
□夜中に何回かトイレに行っている
□趣味に興味を示さなくなった
□些細なことでキレたり、イライラしたり、神経質になった
□仕事への意欲が低下している
□仕事や将来に対する不安を口にするようになった
□激しく汗をかくようになった
□ヒゲを剃る頻度が減った
4個以上当てはまる場合は、男性更年期障害の可能性が。きちんと治療することで、改善できる可能性があるから「お父さん、男性更年期障害かもしれないよ。受診してみたら?」と促してみよう。
「娘さんのすすめで受診したという方も多くいらっしゃいます。娘さんからのアドバイスは、素直に受け止められるお父さんが多いのでしょう」(平澤先生)
男性更年期障害は何科を受診すべき?どんな治療をする?
女性の場合は婦人科があるけれど、“男性科”はないため、病院選びに迷うことも。いざ受診しようと思ったとき、何科を受診すべき?
「男性更年期の治療を標榜している病院を受診するとよいでしょう。総合的な診察をするならまず泌尿器科へ。“テストステロン治療認定医”がいる病院ならより安心です」(平澤先生)
病院では、国際的に認められているAMSスコアによる問診チェックと血液検査で診断。症状に合わせて、より適切な診療科を紹介してもらう場合も。
男性更年期障害は予防できる?
では、男性更年期障害を発症しないために、できることは?
「テストステロンを低下させないことが1つの予防策になり得ます。テストステロンは“社会性ホルモン”とも呼ばれていて、人との接触で分泌量が増えていきます。ライバルと競争しながら仕事をしたり、他人からよく見られたいといった意欲を持つことが、テストステロンを増やします。逆にテストステロンが低下し、気力がなくなると引きこもりがちになる。すると人との接触が減り、ますますテストステロンが低下するという悪循環が生まれます。コロナ禍で人と接触する機会が減ったことで、男性更年期障害を発症する人が増えたと言われているのはそのためなんです」(平澤先生)
平澤先生は、テストステロンを“見栄っ張りホルモン”とも呼ぶ。それを裏付けるのが、アメリカで行われた、ある調査。ファミリーカーに乗っている男性とスポーツカーに乗っている男性では、明らかに後者の方がテストステロンの値が高かったという。
「また、生活習慣を整えることも大切です。例えば食生活。コレステロールはあまりいいイメージがないかもしれませんが、実はテストステロンの材料でもあります。過剰摂取は問題がありますが、適度に摂取することが大事。赤身の肉、レバー、乳製品、卵、魚を摂ってください。牡蠣などに含まれる亜鉛の摂取も有効です。
適度な運動もテストステロンの分泌を活性化させます。“見栄っ張り”視点で言えば、人と一緒にできるスポーツに取り組むのもおすすめ。ちなみに、スポーツを観戦して興奮することでもテストステロンは活性化します。お父さんの運動不足が気になるなら、アクティブな場に誘ってみるとよいでしょう」(平澤先生)
平澤精一(ひらさわせいいち)
マイシティクリニック院長。日本医科大学大学院医学研究科で医学博士号取得。大学病院等での勤務を経て、1992年新宿に「マイシティクリニック」を開業。泌尿器科を専門とし、早期より男性更年期障害の治療に取り組んでいる。テストステロンの研究者として男性更年期障害の治療、高齢者の健康を守る取り組みを数多く実践。著書に『枯れない男になる30の習慣』(幻冬舎)、「60代からの最高の体調」(アスコム)などがある。
https://www.mycity-clinic.com/