コロナ禍でまだまだ予断が許さない状況が続いている今、先行きが見えない不安などのストレスのせいもあってか胃の不調を訴える人が増えているそう。しかし、その多くは特定の炎症などはなく、胃の機能的な不具合が多いのだとか。その正体は「機能性ディスペプシア」かもしれません。聞き慣れないこの病気の症状や原因、改善法などをご紹介します。
コロナ禍に胃の不調を感じている人は約4割!
ヒューマン・データ・ラボラトリ株式会社が行ったアンケート調査(※1)によると、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、緊急事態宣言が発令されて以降、コロナ禍の生活おいて胃の不調を感じている人は41.3%にも及び、そのうち半数近くの人(47.7%)が緊急事態宣言前に比べて不調の程度が重くなっていることが判明したそう。
Q. 緊急事態宣言後から現時点にかけて、胃の不調を感じることはありますか。
しかも、男女別にみると、女性の方がやや胃の不調を感じる傾向にあり、年代別では、男性は20代、女性は30代が最多。比較的若い世代で胃の不調を感じる人が多いという結果に!
Q. あなたの胃の不調はどのような症状ですか。(複数回答可)
胃の不調の原因については「ストレス」(63.2%)をあげる人が最も多く、また、不調の症状は「胃もたれ」(49.5%)、「胃痛」(32.4%)、「胸やけ」(29.2%)の順に。コロナ禍によるストレスで、3人に1人が“コロナ胃痛”に悩まされている可能性が浮かび上がったのだとか。
ストレスは胃の不調につながる?
さらに、同調査によると、胃の不調を感じている人では76.0%が「ストレスを感じている」(「感じている」39.8%+「やや感じている」36.2%)と回答。胃の不調がある人の方がストレスを感じている割合が高いこともわかったそう。
Q. あなたは、ストレスをどの程度感じていますか。
コロナ禍による社会的不安はもちろんですが、ほかにも仕事や人間関係、SNSなどによる情報過多、将来への不安など、何かとストレスが多い現代社会。GINGER世代の働く女性のなかにも、上記のようなストレスを抱え、胃の不調を感じている人もいるのではないでしょうか。
そんなストレス社会で抱える胃の不調、実は「機能性ディスペプシア」かもしれません。「機能性ディスペプシア」とは、胃に目に見える異常がないにもかかわらず、胃の不快症状が続いてしまう疾患で、治りにくく心もむしばむ可能性もあるといいます。今、若い女性たちの間でも増加していて、社会的にも注目を集めているこの病気について解説していきます。
1個でも当てはまったら要注意!あなたも「機能性ディスペプシア」かも?!
【症状】
□ 食後いつまでも食べ物が胃の中にあるような“もたれ感”が続いている
□ 食事を始めてすぐに食べ物で胃がいっぱいになる感じがする
□ みぞおちが痛む
□ みぞおちに焼ける感じがある
□ 普通の量の食事でも食べきれない
□ 健康診断では特に異常がないといわれた
【生活】
□ ストレスを感じている
□ 不規則な生活になりがちだ
□ タバコを吸っている
□ 脂っこいものばかりたべている
□ 運動をほとんどしていない
※監修/春間賢先生(川崎医科大学総合医療センター 特任教授)
「機能性ディスペプシア」とは?
「機能性ディスペプシア(FD:Functional Dyspepsia)」は、胃もたれやみぞおちの痛みなど、胃の不快な症状が続いているにもかかわらず、検査しても特に異常が見られない病気です。このように、目に見える異常がないのに、胃の働き=機能に問題があるのがこの病気の大きな特徴です。
具体的な症状で言うと、機能性ディスペプシアは症状の原因となりそうな疾患がないにも関わらず、
1. 食後の胃のもたれ
2. 早期満腹感
3. みぞおちあたりの痛み
4. みぞおちあたりの焼ける感じ
のうち少なくとも1つ以上の症状があり、その症状が重いため生活に悪影響を及ぼしている。加えて、その症状が6ヵ月以上前からあり、3ヵ月以上症状が持続している、ことを言います。
実は、日本で機能性ディスペプシアが正式な診断名として認められたのは、2013年と最近のことで、今までは神経性胃炎やストレス性胃炎、胃下垂などと言われていたもの。日本では、10人に1人は機能性ディスペプシアだという報告(※2)もあります。
放っておくと、心の健康に影響する可能性も!
この病気の大きな問題は、社会的な影響が大きいことです。放っておいても重篤な状態になるわけではありませんが、つらい症状が続くため、勉強や仕事などに集中できないことも多く、生活の質(QOL:Quality of Life)が下がったり、労働生産性が大きく低下してしまうことも。
また、機能性ディスペプシアは治療が長引いたり、再発したりすることがあるそう。治療が長引くと症状が治らないことがストレスとなり、そのストレスがさらに胃の不調を引き起こすという“負の連鎖”が続くこともあります。さらにQOLの低下により、何もしたくなくなるなど精神的に辛くなり、鬱症状を発症する人も。胃の不調は身体だけではなく、心の健康にも影響するのだとか。
機能性ディスペプシアの原因は分かっておらず、ストレスや生活リズムの乱れによる「自律神経の乱れ」が関与している可能性が高いそう。今までは、「ストレスからくる胃の不調」などと軽く見られていたのですが、病気と認定されたことで治療が進むことが期待されています。
機能性ディスペプシアへの対処法は?
機能性ディスペプシアの原因は分かっていないため、基本的には生活習慣の改善などの対処療法になります。日頃から規則正しい食生活と適度な運動と休養を心掛け、喫煙や飲酒などに注意し、健康をより意識した生活を習慣付けましょう。胃の不調が続く場合には、まずは胃の働きに関わる自律神経の乱れを改善する生活を心掛けることが大切です。
具体的には、以下のようなことがあげられます。
1. 十分な睡眠をとる
2. その人に合った適度な運動をする
3. 規則正しい生活をする
4. 腹八分目にする(胃の負担を軽くするため、飲み過ぎを控える)
5. よく噛んでゆっくり食べる
6. 脂っこいものを抑える
7. お酒を控える
8. 禁煙
市販の胃薬を飲むのも一つの手ですが、生活習慣の改善や市販薬の服用を1~2週間続けても症状が良くならない場合には、別の病気の可能性もあるので、自己判断せず、消化器内科のある医療機関を受診することをおすすめします。
医療機関で機能性ディスペプシアと診断された場合、症状によって胃の運動機能を高める薬や、胃酸の分泌を抑えて胃痛を和らげる薬など、薬による治療が行われます。
いずれにしろ原因が完全には解明されていないため、症状にあった薬を試して効果を見る対処療法になってしまうので、まずは自律神経の働きを整える生活をし、胃に負担をかけない食事の仕方を心掛けることが大切です。
胃の不調の際に、食べたい食品とは?
胃に負担をかけない食事の仕方として、日頃から規則正しい食生活を心掛けることが大事ですが、忙しい現代女性にとってはなかなか難しいもの。では、どんな食品が胃にやさしいのでしょうか。
Q. あなたが胃に良いと思うものはありますか。(複数回答可)
胃に良いと思う食品についてのアンケート調査によると、第1位は「ヨーグルト」で65.7%。2位は「お粥」(43.3%)、3位は「豆腐」(34.1%)と、胃にやさしいイメージのある食品が上位に並ぶ結果に。
特に「ヨーグルト」は、毎日継続的に食べられる(食べたい)/食べやすい食品でもダントツの1位(62.3%)に選ばれており、胃の不調の際に最も食べたい食品であることがわかりました。
胃の不調に、ヨーグルトっていいの?
アンケート結果で、ダントツの1位だったヨーグルト。美容や健康にいいと人気の食品ですが、実際、ヨーグルトに含まれる乳酸菌には、整腸作用や免疫力を高める効果が期待できます。乳酸菌には、さまざまな種類のものがありますが、それぞれ菌の種類によって効果が変わり、なかには機能性ディスペプシアの症状緩和効果のある乳酸菌もあるそう。
これは、機能性ディスペプシアに関する研究結果で、スイスで発行されている医学専門誌「Digestion」に掲載されているというもの。
機能性ディスペプシア(FD)の患者を対象に行った試験で、LG21乳酸菌入りのヨーグルトの摂取期間が長いほど、FDの4つの症状すべてがなくなった人の割合(除去率)が高まり、12週後にはプラセボ(LG21乳酸菌なし)ヨーグルトを食べたグループに比べ、LG21乳酸菌入りヨーグルト群の除去率は35.2%と、プラセボ群17.3%の約2倍になりました。
また、日本消化器病学会が出している機能性ディスペプシアの診療ガイドライン(※3)にも、LG21乳酸菌入りヨーグルトを摂取することで、症状が軽減することが報告されているのだとか。
このように、機能性ディスペプシアの症状を改善するさまざまな対処法の中で、一番は生活習慣の改善があげられますが、ヨーグルトなどに含まれる乳酸菌での治療も有効であるのかもしれません。
いかがでしたか? 最近、胃の調子がなんだか悪い・・・という人は、「機能性ディスペプシア」かもしれません。生活習慣の改善などをしつつ、症状が改善しない方は、専門の医療機関を受診することをおすすめします。
※1 ヒューマン・データ・ラボラトリ株式会社が、2020年10月15日〜19日に、全国の男女2000名を対象に行ったアンケート調査による。
※2 報道基礎資料「ストレス社会と大きく関わる機能性ディスペプシア(FD)」より。その他「機能性ディスペプシア」に関する記述は、この資料を参考に作成しています。
※3 機能性消化管疾患 診療ガイドライン 2021 改訂第2版 機能性ディスペプシア(FD)/編集 日本消化器病学会(南江堂)