“大人のフリ”して放置(我慢したり、見て見ぬふりしたり)せず、煩わしい人間関係をぶった斬り、好きな人たちとだけ生きていく――。そんな“自分基準”を掲げて、人生を楽しく、生きやすくしていきませんか? 脚本家 岸本鮎佳さんの連載「私、幸せになるんで。はい、サヨウナラ」。あなたの人間関係やモノ付き合いの整理整頓&取捨選択に際し、ぜひご参考に!
VOL.20 やっぱ、真面目で良い人がいい?か?
「真面目でいい人がいいよ」とみんな言う。
私もそう思うし、そんなことは分かっている。(何回目?)
この歳になって、周りに死ぬほど言われるので、やっぱり真面目で優しい人がいいのか。と思い直し、「いい人いないかなぁ〜?」と周りに言いまくってたら、まさに「いい人」に出会った。
知人の紹介で出会ったその人は、イケメンでもブサイクでもなく、これと言った特徴のない男。
自分の弱点は、男を減点方式で見てしまうことだということは、重々承知なので、今回はちゃんと良いところを見つけようと思った。
席に着くなり、その男は自分の過去の恋愛話を真剣な顔でし始める。
「えっとぉ、まず、まず僕のこれまでの恋愛からお話ししようかなと思うのですが、前の彼女は10年くらい付き合っていたのですが、結婚するにあたって、恋愛感情がお互いに無くなってしまったので、お別れしたんですね、で、次の人は借金があって、僕が代わりにお金を――」
いきなりの暴露話に面食らいながらも、心のなかで「加点法だぞ! あたしっ!」と、自分に喝を入れる。
私の持論だが、やはり同じ人と10年付き合っていたということは、少なからず一途に人を愛することができる人だと思っている。
うん、いい人だよね。
その後も包み隠さず自分のことを話してくれて、そのエピソードからも彼が「真面目な人」であることは、分かる。
飲み物がなくなれば、頼んでくれるし、こちらの話も真剣に聞いてくれる。
適度に明るく、好きなお笑い番組も一緒だった。
この人はきっと、いい人すぎてこれまでも女に舐められてきたんだろうな、と勝手な想像をしていたら、やはり元カノに金を持ち逃げされたり、浮気をされたりしているようだった。
でも、決してその女のことを悪く言わないし、「まぁ、そういうのに気付かなかった僕が悪いんですけどね…」などと自分に反省している。
彼は「真面目でいい人」なのだ。
顔は悪くないし、私がたとえ飲みつぶれて、化粧も落とさずソファーで寝てたとしても、そっとブランケットをかけて何事もなかったかのように、次の日にしじみの味噌汁を作ってくれる、そんな人だ。
食事も終盤に差し掛かったころ、クーラーが効きすぎて、寒かったので上着を着ようとすると、「寒いですか?」と声をかけてくれた。
「あ、はい、ちょっとクーラーが…」
と私が答えると、彼は、
「あぁ、そうですよね…個室だからクーラーが効きすぎてますよね」
と言って、別の話題を話し始めた。
え? それだけ?
私、寒いって言ったよね?
ほどなくして、彼が通りかかった店員を呼び止めた。
私は、今度こそ空調のことを言ってくれると期待したが、
「何か、飲み物でも飲まれますか?」
飲まねえ。つか、寒いから、この店出たい。とは言えず、仕方なく自分で店員さんに空調を調整してもらえないかお願いした。
そして彼は、ノンアルコールビールの3本目を注文した。
「いい人」は、私だけでなく店員に対しても「いい人」でいたいのだ。
それは、みんなにとって「いい人」だけど、私にとっては「いい人」ではない。
きっと、この人と海外旅行をしてトラブルに巻き込まれたら解決してくれない。怖い人に絡まれても、助けてくれない。一緒に山で遭難したら、確実に命は助からない。
そんな気がした。
「真面目でいい人」は、やっぱり私には合わないのかもしれない。
いや、「いい人すぎて何も言えない人」が合わないのか。
どちらにせよ、今回は潔く、サヨウナラ。
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