私たちの身の回りには読めそうで読めない漢字や、聞いたことはあっても書き方や使いどころのわからない言葉で溢れています。新連載「言葉の森」では、日々言葉について思考を巡らせている書画家・夏生嵐彩が、“言葉の森”の探険途中で見つけた面白い要素をピックアップ。一緒に日本語の新しい側面を発見しながら、言葉の森を探険してみましょう。
雨にまつわる日本語
季節によっては突然のにわか雨に降られたり、不安定な天気に悩まされたりしますよね。憂うつになりがちな雨ですが、日本語には思わずうっとりするような「雨」にまつわる表現があります。
例えば…
【甘雨(かんう)】・・・草木を潤し育む雨。
【花の雨(はなのあめ)】・・・桜の咲く頃に降る雨。
【小糠雨(こぬかあめ)】・・・小ぬかのように、細かい雨。
【袖笠雨(そでがさあめ)】・・・袖を笠にしてしのげるくらいの小雨。
【私雨(わたくしあめ)】・・・限られた狭い範囲にだけ降る局地的な雨。
少し挙げただけでもうっとりしますよねぇ。
もしも自分のいる場所だけ雨が降ったりしたら「なんでここだけ!」とイラつきそうなものだけれど、「私雨」と表現すると「自分だけの雨」みたいでちょっとうれしいというか小気味いい気持ちになるのは私だけなのかしら・・・。
雨の字源
さて「雨」という漢字、元をたどると象形文字なのですが、生徒に「なぜ屋根の中で雨粒が降っているの?」と聞かれたことがあります。
たしかに、傘のような屋根のような囲いの中で雨粒が降っているように見えます。屋内で降るなんて不思議ですよね。でも実は元の形は、この囲いのような枠も「雨粒」だったんですよ。
天から雨粒が降り注いでいる形です。
余談ですが、この漢字ポイントとして雲ではなく天から雨が降っていること。科学的には雨の素であるはずの「雲」という漢字に「雨」がついていますし、どっちが先なんだか?という字の組み立てになっております。
では雲はどのような成り立ちなのでしょう?
実はもともとの形は「雲」ではなく「云」がくもを表す字「ウン」でした。しかもなんとこの形は空に流れる雲の下に竜の尻尾が少し現れている様子を表しているんです。
竜!? 竜の尾かぁ・・・! 雲には竜が住んでいますもんねぇ。そりゃ文字にもしちゃいますよねえ!! これはもう成り立ちを知るとますます好きになってしまう文字ですねえ!(興奮)
そんな竜の尾チラ見せの「云」に、のちのち雨をつけて「雲」という形に変化し、「云」は「いう」のように別の意味で用いられるようになりました。
美文字の秘訣〜雨粒を串ざしに〜
美文字の基本は
1. 隙間を合わせる
2. 角度を合わせる
3. 中心を合わせる
ということです。
「雨」を書く上で気をつけることは、「角度を合わせる」こと。
点々の部分、適当にチョンチョンと打っていませんか? 一画目の角度にあわせて平行になるように点々もちゃんと串ざしになるように書くと、整って見えます。
雨かんむりでも同じです。ワンポイント意識するだけで変わるので試してみてくださいね。
さてさて、雨の話のはずが、雲の思わぬ字源にあたって興奮してしまい失礼しました。もともと「雲」の古代形を知っていたのに、勝手にグルグルの部分は雲の形を表していると思っていたのですよ。まさか竜の尻尾とは・・・。言葉の森は深い好奇の森ですね。
きれいな雨の表現、調べればまだまだたくさん出てきます。
「ほんの袖笠雨ですから」なんて、いつか言ってみたいものです。