美術を面白おかしく、わかりやすく解説する“アートテラー”として活躍するとに~さんによる連載。読者の皆さまからの質問も随時受け付けています! 今回は、密かなファンの多いこちらの企画。
こんばんは。アートテラーのとに~です。おかげさまで、昨年出版した文庫本『名画たちのホンネ』に重版がかかりました。人生初重版! お手に取っていただいたすべての皆様に感謝の気持ちでいっぱいです。メルカリにも定期的に出品されているようですが、一応今のところ全部SOLDになっているので、筆者としては切ないような嬉しいような。複雑な感情になっているというのがホンネです。
さてさて、本日は不定期企画「巨匠たちのすべらない話」のスピンオフ、「巨匠の妻たちのすべらない話」をお届けしたいと思います。巨匠と言われる芸術家の妻たちは、誰でも1つはすべらない話を持っており、そして、それは誰が何度聞いても面白いものである。すべらんなぁ。
ラストダンスは私に
印象派を代表する画家ルノワール。巨匠ながらも意外と晩婚で、49歳の時に18歳下のアリーヌ・シャリゴと結婚しました。たびたびルノワールの作品のモデルになっているアリーヌ。田舎出身で素朴な姿は、肝っ玉母さんといった風情があります。そんな温和な印象の彼女にも我慢ならないことがあったようで――。
それは、ルノワールとまだ結婚していない恋人時代だった時のこと。ルノワールは当代一の美人として人気だったシュザンヌ・ヴァラドンをモデルに、ダンスをテーマにした3部作を描こうとしました。現在、《ブージヴァルのダンス》《都会のダンス》《田舎のダンス》というタイトルで知られる、いわゆる「ダンス3部作」です。ところが、この制作中、ルノワールとシュザンヌがアトリエでいちゃついているところに、アリーヌが現れ、手にした箒でシュザンヌに一撃。ルノワールには、自分をモデルにするように、と詰めたそうです。その結果、《田舎のダンス》のモデルは、シュザンヌでなくアリーヌに。3部作のうち1人だけモデルが違うのはそういう理由があったのですね。
ガラからの手紙
シュルレアリスムを代表する画家ダリのミューズにして最愛の妻であるガラ(本名はエレーナ・イヴァーノヴナ・ジヤーコノヴァ)。実は根は真面目だったという証言もあるダリに対して、ガラはダリ以上に変わった人物だったよう。そして、欲望に忠実な人物だったようです。その性格は晩年まで変わらず、ダリにプレゼントされたスペイン・カタルーニャ地方の村プボルにある中世のお城に一人で住むようになってからは、若い男性を次々に連れ込んでいたのだとか。そんなはずじゃなかったと悲しんだのはダリ。自分が贈ったお城にもかかわらず、気軽に立ち入らせてもらえなかったそう。中に入れるのは、ガラから招待状が届いた時だけ。夫にわざわざ招待状を送るだなんて。なんともシュールな夫婦関係です。
命がけのアドバイス
ガラよりも、ある意味でぶっ飛んでいるかもしれないのが、江戸時代の人気絵師・円山応挙の妻お雪です。円山応挙は、自然を徹底的に観察し、リアルに描写する、いわゆる「写生」に基づき、それまでの日本にはなかった「写生画」を生み出した絵師として知られています。
そんな彼のもとに、ある日、幽霊を描いてほしいという依頼が舞い込みました。しかし、幽霊を写生することができないため、途方に暮れてしまいます。そんな日々悩み続ける夫の姿に心を痛めた妻お雪は、白装束を着て自害。そして、自らが幽霊となって夫の枕元に現れたのだとか。そんなお雪の姿を応挙は描いたのだそう。もし、この話が事実だとしたら、どれだけ夫想いだったのか。その愛の深さに、ただただ驚かされます。
ちなみに、その時、お雪は足が無い姿だったとか、時間が限られていて足まで描く時間が無かったとか、諸説ありますが、こうして誕生したのが日本初の足の無い幽霊画だったそうです。それを多くのフォロワーが真似したため、日本の幽霊は足が無いスタイルがお馴染みになったとのこと。信じるか信じないかはあなた次第です。
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