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LIVING趣味

2019.03.22

男の魅力とは、なんぞや。『男子観察録』で学びましょう

本好きライター温水ゆかりさんがおすすめの1冊を紹介する「週末読書のすすめ」。紙に触れてよろこぶ指先、活字を目で追う楽しさ、心と脳をつかって味わう本の世界へ、今週末は旅してみませんか。

『男子観察録』ヤマザキマリ著

温水ゆかり

好きな男を並べてみたら、見えてくること・・・

驚いた。ヤマザキマリが偏愛する25人のイケメンを紹介するこの本のトップに、ハドリアヌス帝(第14代ローマ皇帝)がこようとは。紀元76年(西暦という紀年法はまだない)生まれ、紀元138年に没したオノコをいきなり出されても困る、と言う人も少なくないはず。でもこの話はまた最後で。

十八代中村勘三郎(1955~2012年)の項では、勘三郎さんの在りし日がいきいきと蘇る。出会ったのはリスボン。勘三郎さん夫妻は旅の途中で、ヤマザキさんは通訳兼ガイドのような役を務めたようだ。ヤマザキ一家はイタリア人学者の夫の都合でリスボン在住だったこともあるので、きっとその時期のことだろう。

名刺代わりに雑誌から切り取ってホッチキスで留めただけの『テルマエ・ロマエ』1話分を渡すと、2011年のある日、メールが入る。電話をすると、勘三郎さんが弾けるような闊達さでこう話す。笹野高史さんの楽屋で『テルマエ・ロマエ』のポスターを見た、俺はこういう話を最初に書いた人間を知っている、これは盗作だとわめいてやったけれど、ふと原作者のクレジットに目をやると、「あんたの名前があったんだよ」。なんて素敵な再会だろう。

出会ったときに話を戻せば、旅人と現地在住の日本人との距離が縮まったのは、話がふとした拍子に、ガルシア・マルケスの『百年の孤独』に転がったときのことだった。
勘三郎さんは旅をしながら丁度『百年の孤独』を読み進めている最中で、その面白さと興奮を「あらゆる表情筋や仕草を駆使して放出させ」る。
ヤマザキマリは目を瞠る。体裁を気にせず、精神の高揚を全身全霊で表現する日本人に初めて会った、その表情はイタリア人よりずっと多様で味わい深く、「内面に潜んでいるインテリジェンスや繊細さ」の万華鏡のようであった、と。

この項では、ヤマザキマリが心のカメラで撮った永遠のワンショットも記録されている。食べて飲んでさんざん騒いだリスボンの夜、夫妻はまるで学生カップルのように、真夜中の石畳の坂道を手をつないで歩いていたという。ブラッサイが夜のパリの街角でシャッターを切った若い恋人達の写真のようではないですか。

本書には、そのブラッサイと仲間だったシュルレアリスムの写真家マン・レイ(〈描けないものを撮り、撮れないものは描く〉を信条にした写真家にして画家)、チェ・ゲバラ、スティーブ・ジョブズ、日本人では安部公房、水木しげる、空海、とり・みきなどが登場する。とり・みき氏はこの文庫の解説も。
海外での暮らしが長いからだろうか、自分にとっての男の魅力が、日本的な価値観から離れた欲得抜きの純度で書かれている。

「男なんてね――地球上もっとも無邪気で無責任な生き物」にはこうある。自分は男に強さは求めない、男の責任感なんてものは「後天的に作られた似非要素」であって、男の魅力は、何の必然性もないことについて考え込んだり、空気の読めない行動をとってしまったりするところにある、と。
なんてこった、これじゃ“うわの空男”じゃないか!?

気を取り直して書けば、ヤマザキマリは旅する男が好きなのだと思う。異国の文明を見聞して持ちかえる旅、バイクで国境を越える革命の旅、母国の政治体制にノーを表明する亡命者の流浪の旅。
ここに現れる男達は、ほとんどが“旅の途上”という空気をまとっている。これってヤマザキマリと、どこか似ていませんか?
彼らはヤマザキマリの自画像なのだと思う。鏡に映した自画像もあれば、こうなりたいという憧れをこめた自画像もある。“ジェンダーを超えて探した私のロールモデル”というのが、本書の正体だろう。

勘三郎さんと出会うずっとずっと前から、ヤマザキマリもまた『百年の孤独』に魂を持っていかれていたことが分かる『セルジオとピエロ――貧しく尊い表現の恩師』には、没落した御曹司の落魄感や、アルゼンチンから亡命してきた姉弟のサウダージ感が漂う。フィレンツェの画学生だったヤマザキマリが捉えた“無名で持たざる人々の光と影”であるこの項もまた、貧乏青春譜のようで忘れがたい。

さて、冒頭のハドリアヌス帝に戻れば――。
ヤマザキマリの出世作『テルマエ・ロマエ』の時代背景はハドリアヌスの治世である。自作解説も兼ねてトップバッターに抜擢したのかといえば、それは違う。
属州(現スペイン)から中央のローマに出てきて学問するうちに、ギリシャ文明に身も心も持っていかれ、ギリシャの美少年を愛して同性愛者を貫き、子孫も残さなかったハドリアヌスス。皇帝自ら設計し、いまもローマ近郊に遺る「ハドリアヌスの別荘」の建築思想の斬新さに驚愕したことのあるヤマザキマリは、ハドリアヌスは皇帝にならなくても稀代の建築家になったはずだと夢想する。

実は私もイチオシ。『ハドリアヌス帝の回想』という本があって(マルグリット・ユルスナール 著、多田智満子 訳)、これは本当に名品。死を前にしたハドリアヌス本人が書いたわけではもちろんなくて、フランスの女性作家ユルスナールが1800年以上の時を超え、ハドリアヌス当人にまさに憑依して書いた。彼女の端正で流麗な筆致で紡がれる「ハドリアヌスの内省=人生という旅」に圧倒された記憶は、いまも小さな脳にシワ深い。

旅する男、空気が読めず群れから浮いてしまう男、頭のよさが哀愁となって漏れ出てしまう男。このへんがヤマザキマリの鑑賞にたえる男達のようだ。

温水ゆかり

『男子観察録』
ヤマザキマリ 著/幻冬舎文庫
歴史に名を残す皇帝から、テレビ番組のキャラクター、そして息子の名前の由来まで、ヤマザキマリの心に響いたイケメンたちがズラリと登場。その味わい深い魅力が語りつくされる1冊。「男らしさ」って何だろう?を紐解く、新しい男性論。

TEXT=温水ゆかり

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