連載「青木貴子のラグジュアリー案内」。スタイリストの青木貴子さんが、注目のニュースを独自の視点で解説します。
シャネルの偉業を通して知る、女性解放とファッションの関係
「シャネル」は世の多くの人が知っている、そして多くの人の羨望の的であるハイエンドブランド。その創業者であるガブリエル・シャネルの展覧会『ガブリエル・シャネル展 Manifeste de mode』が東京丸の内の三菱一号館美術館で開催されています。早速見てきました。
この展覧会には、彼女のクリエイションを鑑賞したり、“ブランド”の変遷を見たりといったことにとどまらない魅力があります。彼女が生きていた時代の、社会における女性の在り方、改革や解放の歴史に触れることができ、知的感性が刺激される内容でした。
ときは1920年代、第一次世界大戦後まだまだ女性は社会的に窮屈な思いをしていました。女性たちの自由で活動的な発展への大きな起爆材となったのが、実用性と快適さを併せ持つシャネルの服だったのです。動きを妨げる余分な装飾やシルエットを嫌い、徹底してシンプルと洗練を追い求めたデザインは、時代の空気に押されるように広がり、人気を博していきます。
象徴的なのは、そのスタイル。彼女はスポーツウェアや男性服から着想を得て、まったく新しいジャンルの服を生み出しました。ニットやツイード、ジャージーなど身近にある日常的な素材とラグジュアリーなテイストをミックスするという、かつて誰も踏み込んでいなかった領域。それは普遍的で、いま現在でも通用する(というか継続的に存在している)服の創造に他なりませんでした。実際、今回展示されている服たちはどれも素敵で「着たい!」と思うようなものばかり。色褪せないデザイン、彼女のデザイナーとしての力量にあらためて感嘆してしまいました。
ブランドに今なお息づく「発想力」と「意志の力」
私がいちばん感銘を受けたのは、ガブリエル・シャネルの「常識にとらわれない柔軟な発想力」と「迎合せず貫き通す信念と意志力」です。
まず発想力について例を挙げると、男性服のデザインを取り入れる、日常的な素材を使用する、それまでは喪服の色とされてきた黒い服をシックな装いとして提案する、天然香料に合成香料を多量に掛け合わせることで新しいタイプの香水を作り上げる、ショルダーバッグをデザイン、ファインジュエリーとコスチュームジュエリーを混在して使う、などなど枚挙にいとまがないほどの新しい挑戦をしています。
信念については、徹底的にシンプルなデザインでありながら活動的な着やすさを兼ね備えているエレガントな服作りにこだわり続けたこと。彼女は一度、15年ほどクリエイションを休止していた時期があります。女性たちを窮屈なコルセットから解放したシャネルでしたが、休止している間に再び女性のファッションが以前のスタイルに戻ってしまいそうになったのです。そこで彼女は(当時70歳を超えていましたが!)再びポジティブの象徴であるシャネルのスーツをはじめさまざまな進歩的なデザインを世に送り出すために復活したのです!! なんという意志の力!
解剖学的側面も加味したシルエットバランスや彼女独自の発想に基づいたエレガンスの在り方、細部にわたってこだわり続けたスタイルが確立されたのは、この信念があったからこそ。そしてガブリエルのエッセンスが引き継がれている「シャネル」というブランドが、いまなお魅力的であり続けているという事実を思うと、意志こそが永遠を作り上げる大きな力なのだなぁと感じます。意志を持つことの意味や意義、大切さを知ることができました。
ラグジュアリーブランドとしての「シャネル」を縁遠く感じている人もいるかもしれません。しかし、先にも述べたとおり、この展覧会は単にブランドの過去のクリエイションを眺めるものではありません。展示物を通して、時代を動かした一人の偉大な女性の精神に触れることができます。“20世紀で最も影響力のある女性デザイナー”と言われるガブリエル・シャネルの軌跡を見ることは、大きな価値と意味を持つと思います。見るも楽しい、知るも面白い、おすすめの展覧会です。
『ガブリエル・シャネル展 Manifeste de mode』
会期/2022年6月18日(土)~9月25日(日)
会場/三菱一号館美術館(東京都千代田区丸の内2-6-2)
CHANEL.COM 展覧会特設ページ
三菱一号館美術館 公式サイト
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