映画ライター渥美志保さんによる連載。ジャンル問わず、ほぼすべての映画をチェックしているという渥美さんイチオシの新作『カモン カモン』をご紹介。作品の見どころについてたっぷりと語っていただきました!
子供たちの自由な未来に、オジさんができること
トラブルを抱える元夫の尻ぬぐいをしに行く妹から、その留守中に9歳の甥ジェシーの面倒を見てほしいと頼まれたジョニー。映画は二人が一緒に過ごした数週間を追っていきます。
ジョニーを演じるのは、『ジョーカー』を演じたあのホアキン・フェニックス、つまりちょっと野獣みたいなおじさんなのですが、私はこういう人と幼い子供の組み合わせが大好き。子供が「小さな怪獣」みたいなタイプだとさらにいいんですが、この作品はまさにそういう作品です。
小さな子供に視線を合わせて会話をしたり、眠る前のベッドでお話を読んであげたり、自由なジェシーに振り回されたり、いたずらされるままになったり、およそ野獣おじさんに不似合いな場面が微笑ましくていちいち可愛い。
でもこの映画がそういう可愛さだけの作品でないのは、ときにジェシーが子供ならではの無邪気さで、ジョニーの心の柔らかい部分に踏み込むような質問をするから。例えば、「なんで結婚しないの?」。ジョニーは今もある女性と結婚したいと思っているんですが、相手に断られているんです。
妹との間にも亡くなった母親を巡ってちょっとした過去があるのですが、頭のいいジェシーはそれにも気づいて「なんでお母さんと兄弟らしくしないの?」と聞いてくる。目をまっすぐ見ながら繰り返される問いかけをきっかけに、ジョニーは自分が誤魔化してきた小さなわだかまりに向き合うようになっていきます。
ジョニーはラジオジャーナリストで、アメリカの各都市に住む子供たちに「人生と未来について」というテーマでインタビューしているのですが、彼らは大人が思うよりずっと物事を理解しているのがわかります。
ジェシーもやがてジョニーの孤独を本能的に理解するようになるのですが、それはやっぱり彼も少し寂しい思いをしているから。ジェシーがしばしば妄想のごっこ遊び「親のない子供ごっこ」を始めるのは、彼がその形でしか自分の寂しさを表現することができないから。
そして今度はそれに気づいたジョニーが「辛いときは、叫んでも泣いてもいい」と言ってあげるのですが、それは自分自身への言葉でもあります。「男の子だって泣いていい」は、大人が下の世代にしてやれる古い価値観の打破であるような気がします。
さしはさまれるインタビュー–――俳優ではない、一般の子供たちが自由に語る希望に満ちた未来が、その言葉に共鳴します。
『カモン カモン』
監督・脚本/マイク・ミルズ
出演/ホアキン・フェニックス、ウディ・ノーマン、ギャビー・ホフマンほか
https://happinet-phantom.com/cmoncmon/
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※4月22日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
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