映画ライター渥美志保さんによる連載。ジャンル問わず、ほぼすべての映画をチェックしているという渥美さんイチオシの新作『ガンパウダー・ミルクシェイク』をご紹介。作品の見どころについてたっぷりと語っていただきました!
5人の女殺し屋が大暴れするB級アクション
組織の金を横領した会計士の殺害を依頼された殺し屋のサム。ところがその金は誘拐された9歳の娘エミリーの身代金を払うためだったと知った彼女は、父親は殺してしまったものの、娘を見殺しにできず救出に向かいます。
サムの独断に怒った組織は、捕えるためにサムを追います。さらに別の依頼でロシアンマフィアの恨みを買ったサムは、救出したエミリーとともに追われるハメに…。
のっけから拳銃をぶっぱなし、追っ手を蹴散らしてゆく痛快B級アクション作品は、そのマンガチックな世界観も最高です。キアヌ・リーヴス主演の『ジョン・ウィック』で、殺し屋が集まるホテルっていうのがありましたが、あの世界とどこかでつながっていそうな感じ。
ここでは女殺し屋が武器調達する図書館が登場し、最後の壮絶なアクションの舞台にもなってゆきます。仕事で男性相手にガンガンやりあい、帰ってきたら真っ先にアイスクリーム食べるヒロインに、「わかるわ~」なんて共感する人も多いんじゃないでしょうか。
主演カレン・ギランは『アベンジャーズ』で有名になった女優さんなのですが、同作では顔は真っ青、コンタクトレンズで白目をなくした宇宙人の役だったので、気づかない人も多いかもしれません。180cm越えの恵まれた体格は、今後もアクションで活躍しそうで楽しみ。
さらに映画ファンに嬉しいのは、彼女の援軍として登場する大人の女性たちの顔ぶれ。私が嬉しかったのは、アジアのアクション女優の草分けミッシェル・ヨーが、健在のカッコいいアクションを見せてくれるところ。最近では『クレイジー・リッチ』の怖い義母で知られる女優ですが、彼女はボンドガールでもあります。
そして15年前に失踪したサムの母親、彼女自身も殺し屋であるスカーレット役のレナ・ヘディ。大ヒットドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』では、悪の限りを尽くして愛も権力もほしいままにした女性、サーセイ役がド迫力だった女優さんです。とにかく女性たちが強くわがまままで、絶対に諦めないのがたまりません。
「女性の殺し屋」というキャラクターは、映画の中ではずいぶん昔から登場してはいましたが、それは「ここでちょっと変わった武器が登場したら面白いよね」と同じような感じ、つまり「殺し屋が女性だったら、ちょっと意外で面白いよね」という登場の仕方で、人物としての内面を描かれることはそれほど多くはありませんでした。ここにきて女性の殺し屋、もしくはスーパーヒーローはすごく増えています。
全然関係ないけど、私はNetflixで配信されているシャリーズ・セロンの『オールドガード』というアクションものが大大大好き。
「女はどうせアクションだって吹き替えなんだろ?」という意地の悪い男性もいるかもしれませんが、シャリーズのようにかなりのアクションを自分自身でやっている女優もいるし、逆に『アベンジャーズ』なんて男性スターだってほとんどの人がグリーンバックですから、男だから女だから、なんて言うのは野暮もいいところ。
女優さんたちも臆さず、こういうカッコいい役にガンガン挑戦していってほしいなあと思います。
ちなみに「武器の図書館」では本の内部がくりぬかれて銃が収まっているのですが、ジェーン・オースティン、ヴァージニア・ウルフ、エミリー・ブロンテが「武器」として登場するのも最高です。各時代の女性の生きざまを描いた女性作家たち、気が向いたらそちらの作品もどうぞ。
『ガンパウダー・ミルクシェイク』
監督・脚本/ナヴォット・パプシャド
出演/カレン・ギラン、レナ・ヘディ、カーラ・グギーノ、ミシェル・ヨーほか
(c)2021 Studiocanal SAS All Rights Reserved.
https://www.gpms-movie.jp/
※3月18日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
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