映画ライター渥美志保さんによる連載。ジャンル問わず、ほぼすべての映画をチェックしているという渥美さんイチオシの新作『ひらいて』をご紹介。作品の見どころについてたっぷりと語っていただきました!
女子高生の恋の暴走が、ひらいたものは
作品は芥川賞作家・綿矢りさの小説が原作です。彼女の作品は「そっちにいくんかい!」とつっこみたくなる制御不能な主人公が魅力ですが、この「ひらいて」もそんな作品です。
可愛くて頭もいい人気者の女子高生・愛は、同じクラスの優等生・西村たとえに思いを寄せています。自信満々かつやや邪悪なタイプの愛は、たとえをぐいぐい押していくわけですが、彼は全然なびかない。あるとき、彼のカバンを漁ってみたら、出てきたのは隣のクラスの地味な女、美雪からの手紙が。どうやらふたりは密かに付き合っていたんですね。
地味で気弱な美雪は可愛くもないし人気者でもない、でも浮世離れした独特の無邪気さがあり、それゆえに周囲から仲間はずれにされているような女の子です。愛は「この女をどうしてやろうか」という感じで美雪に近づき、妙な馴れ馴れしさで友達に。
平凡な作品であれば、愛が美雪に意地悪を始めるところなのでしょうが、愛はなんと美雪に肉体的に迫ってゆくのです。ある事情から大学受験に賭けているたとえは、「受験が終わるまでは」と美雪との関係をいろいろセーブしているんですが、美雪はセックスに興味がないわけじゃない。邪悪な愛は「そこをついていたぶってやろう」と考えたわけです。
恐ろしく意表を突いた展開だし、同じことを男性がしたら…と考えれば、倫理的にも相当リスキーで、愛の行動はほとんど暴走と言えます。愛をまったく疑わない純真無垢な美雪が、されるがままに蹂躙されてゆく過程にはハラハラしっぱなし。美雪を汚し傷つけてやろうと企む愛は、相当に邪悪です。
それでも私が愛を嫌いになれないのは、彼女なりに必死だからでしょうか。愛は「愛すること」がどういうことなのか、さっぱりわかっていません。たとえに「私のものになって」と迫る場面で、その混乱は更に深まります。実際に抱き合ってもキスをしてもセックスしても、誰かを所有することなんてできないからです。
その反面で「抱き合ってキスしてセックス」した愛と美雪の間に、なんらかの愛情が生まれてしまうことも描いているのが、この作品の面白いところ。恋愛ものというよりは青春ものと言う感じでしょうか。何もかもがむき出しで痛々しいほど必死な愛が、常識も普通もなぎ倒して突き進み、新たな境地に到達するラストは妙に爽快ですらあります。
『ひらいて』
監督・脚本・編集/首藤凜
出演/山田杏奈、作間龍斗(HiHi Jets/ジャニーズJr.)、芋生悠
(c)綿矢りさ・新潮社/「ひらいて」製作委員会
http://hiraite-movie.com/
※10月22日(金)全国公開
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