映画ライター渥美志保さんによる連載。ジャンル問わず、ほぼすべての映画をチェックしているという渥美さんイチオシの新作『トムボーイ』をご紹介。作品の見どころについてたっぷりと語っていただきました!
本当の名前はロールかミカエルか?
小さな田舎町に二人の子供を連れた家族が引っ越してきます。近所に住むリザは、短い髪にTシャツ&ショートパンツ姿の「ミカエル」と名乗るその子のことを、ひと目で気に入り仲間に引き入れます。
季節はちょうど夏休み。子供たちはみんなで集まってサッカーしたり、池で水遊びしたり、毎日のように遊んでいます。
リザはちょっと大人びた男子にも人気の女の子なのですが、ちょっとシャイで子供っぽく騒いだりしないミカエルを「あなたはほかの男の子たちと違う」なーんて見つめたりして、ちょっと恋の予感が漂います。
ところが、ミカエルは、ロールという名前で、実は女の子。新しく引っ越してきた場所でリザに勘違いされたのをいいことに、つい「ミカエル」と名乗ってしまったのです。
主人公のロールは、深刻に悩んでいるわけではないけれど、何もわからないままセクシュアリティのゆらぎを感じている子供、というのが正しいかもしれません。「男の子」のように振る舞いたいロールは、サッカーの最中は男の子たちをずーっと目で追い、その仕草を研究し真似てみたりしています。
シャツを脱ぎ上半身裸で走り回る姿を見て、え、まさかこれも真似しちゃうの…?とか、池に泳ぎに行くぞ!お前も来い!とか言われて、いくらなんでも水着は…!とか。かと思えば、水着のときに男の子にレスリング風に組み敷かれたり・・・とか、美しい田園風景の中で遊ぶ子供たちという、のどかなシーンなはずなのに、見ているこっちはほとんどサスペンス(笑)。
外では「ミカエル」であることは親にも内緒にしているので、そのあたりも含めて「マズい!バレる!」の連続。「そんなんで大丈夫か!?」という思わず笑っちゃうような作戦にも、ハラハラドキドキです。
子供たちを主人公に描いたフランス映画って、子供のすごくナチュラルな姿を映像におさめている作品が多い気がしますが、この作品もそういう作品。私が特に気に入ったのは、ロールの妹のジャンヌ。ロールの秘密を知りながら、お友達にも親にもバレないよう振る舞っていて、すごくおしゃまで可愛い。
男の子たちはリズを演じた女の子の実際の友達たちにお願いしたらしく、こちらもすごく自然です。子供らしい少し残酷なところもありますが、でも「ロールはここでやっていけそうだな」というちょっとした光が見えるラストも魅力的。
大きなくくりでいえば「LGBTQ」がテーマの作品かもしれませんが、そこまで難しい話ではなく、可愛らしくて微笑ましく、後味も爽やかな作品です。
『トムボーイ』
監督/セリーヌ・シアマ
出演/ゾエ・エラン、マロン・レヴァナ、ジャンヌ・ディソンほか
(c)Hold-Up Films & Productions/ Lilies Films / Arte France Cinéma 2011
http://www.finefilms.co.jp/tomboy/
※9月17日(金)新宿シネマカリテほか公開
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