コロナ禍をきっかけに部屋を片付けた人も多いと思いますが、作品はその片付けがテーマ。若きデザイナーである主人公ジーンは、古びたガラクタだらけの部屋を北欧テイストのミニマルスタイルの部屋にリフォームするために、過激な片付けを敢行します。
「やるぜ!」とばかりにバンバン捨てていたジーンを、様々なモノが立ち止まらせます。親友が貸してくれたCD、元恋人のカメラとフィルム、出ていった父のピアノ・・・。そのモノや思い出をどうするのか? ちゃんと片付けられて、心機一転、部屋のリフォームへこぎづけることができるのか?
そんな“片付け”から垣間見える人間の感情をテーマにしたこの映画の見どころを、映画ライター渥美志保さんにたっぷりと語っていただきました!(編集部)
人はどうして、モノを捨てられないのか?全世界的に大流行の「こんまりメソッド」にも注目
コロナ禍のステイホームをきっかけに部屋を片付けた人、そしてまさにこれからの年末シーズンにものを捨てようと思っている人は多いかと思いますが、この作品はそんなタイミングで見るにふさわしい「年末の大掃除」がテーマの映画です。
「新しい自分になる」という目標を掲げた若きデザイナーのジーン。まずは部屋を北欧テイストの何もない部屋にリフォームしようと、年末を目処に片付けようと決意。家中の古びたガラクタをじゃんじゃんと捨ててゆきます。
いってみれば、物語はその課程を追うだけなのですが、これが不思議とすごく面白いドラマを描いてゆきます。
最初はなかなか物を捨てられない、「あ、これ、懐かし~!」とか言いながら本を読んだり写真を見たり、まさに「片付けあるある」です。こんなんで終わるわけない!と何も考えずに捨ててゆくと、今度は加速がついちゃったり。
そこに訪ねてきた親友が、捨てるつもりのCDの山の中から、かつて彼女が苦労してやっと見つけてプレゼントしたCDを発見し「(カッチーン)!!!!」となる・・・みたいなことが次々と起こります。
親友に罵られ、自分の無邪気な身勝手さに気づいたジーンは、今度はモノを捨てるのが怖くなり、特に「手元にある他人のもの」を、本来持つべき人に返そうと奔走し始めます。
返却した相手には感謝されることもありますが、もちろんそうしたうれしい反応ばっかりではありません。
やがて見えてくるのは「人がモノを捨てられない理由」です。結局のところ、「モノ」は人間の感情が照射されたもので、捨てられないのは、その感情に見切りが付けられないから。
ふと出てきた「モノ」が突きつけるのは、【相手のことをすっかり忘れていた自分(「今頃何のつもりだよ」)】や、【相手に忘れられていた自分(「そんなもん、今まで大切に持ってたの?」)】。そして、そうした状況を直視できないまま、密かに風化してくれるのを待っていた自分です。
深く考えもせず掲げた「新しい自分になる」という目標は、ラストが近づくにつれ強くリアルに迫ってくる。それを陳腐で安っぽい感傷を加えないのが、この作品のカッコイイところです。
ちなみに、主人公が片付けの手始めとしてスーパーで購入するのが、あの近藤麻理恵さんの『人生がときめく片付けの魔法』。Netflixで番組になるほどの全世界で大ブームを巻き起こした、その一端が垣間見える作品でもあります。
『ハッピー・オールド・イヤー』
監督・脚本・プロデューサー/ナワポン・タムロンラタナリット
キャスト/チュティモン・ジョンジャルーンスックジン、サニー・スワンメーターノンほか
(c)2019 GDH 559 Co., Ltd.
http://www.zaziefilms.com/happyoldyear/
12月11日(金)シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開