アーティストそして俳優として、活躍のフィールドを広げ続けている川島如恵留(Travis Japan)の連載『のえるの心にルビをふる』。今だからわかったこと、気付いたこと、そして様々な出来事についての自らの考察をつづります。【vol.21≪クラッチ≫】
クラッチ

大型トラックを運転出来る人ってとってもかっこいい。動機はそれだけで十分だ。
あんなに大きくて長い鉄の塊を思いのままに操ることが出来る技術と度量にカンパイである。
7月に入り、私の趣味である教習所通いが再開した。今回通うのは「大型自動車第一種運転免許」いわゆる「大型一種」である。
「車両総重量11トン以上、最大積載量6.5トン以上、または乗車定員30人以上の大型自動車を運転するために必要な国家資格」とAIは言っている。
バックホウや高所作業車は何度かレンタルし操縦したことがあるが、10トンを超えるような大きさの機体を時速30キロメートルもの速さで動かしたことはない。その迫力たるや、一度味わうと決して忘れられないものである。
職業はアイドル。通う教習所の教官のおじさま方(お兄さまと呼びたいところではあるが)も、Travis Japanの川島如恵留という男性アイドルがここに通っているということを知ってくれていて、雑談タイムで「YouTubeみたよ。ゆくゆくは大型二種まで取りたいんでしょ?」と言ってくれるおじさまにも出逢った。
嬉しいのである。名前を知ってもらえているだけでなく、その一歩先を見てくれる人になってくれたのだ。私が教習所に通っていなければ、おじさまがわざわざ私のYouTubeを検索して動画をみてみよう、とはならないだろう。おすすめにポンと流れてくるような動画では無い筈だからだ。これに関しては私が頑張ることである。自分の行動がきっかけで人を巻き込んでいく、このプロセスがたまらなく嬉しく感じるのだ。
「大型は仕事で使う予定あるの?」
はい、いただきました。新しい教官に出会う度に聞かれるフレーズである。
「今の所は無いんですけど、ずっと運転出来るようになりたくて! ロマンなんです!」
大抵の教官は「へぇ、そうなんだー」と不思議そうに微笑む。その笑みからはどことなく、お砂場でお城を一所懸命建てている子どもに何を作っているのか聞く親御さんのような温かみと、それに何の意味があるのかという困惑の漏れを感じさせてくれる。
仕事の為に取らなければならない人達もいる中で、全くと言っていい程取る必要には迫られていない人が通うとなると、私はきっと温度感が違うのだろう。教官や教習生にとっての邪魔にならないように、感謝しながら熱い思いを持ってありがたく通わせていただくことは必要最低限と思って通うようにしている。
50分の1コマの為に、早朝から車を走らせたり、仕事終わりに駆け足で向かったり。自家用車から降りて乗り込むのは11メートル越えの大型トラック。左足のピストン運動で慣れないクラッチペダルの圧力を感じながら、左手は7速まであるギアの2〜4の3つだけを行ったり来たりさせつつ、むしゃぶりつきたいほどのアメリカサイズPIZZAハンドルの大きさにトキメく日々を送っている。
最近始めた趣味のボルダリングの壁より高い車体は、近くに行くとより実感する。デッカ。壁やん。これ動くんか。実際見るとめっちゃデカいな、と。
「テレビで見るより顔ちっちゃーい!」の対義語に認定したいところである。
あと何ヵ月かかるだろう。7月12日から始めた大型一種の教習、目標は2026年中に取りきる、としておくが、1、2ヵ月は溢れそうなところだ。
その頃にはクラッチへの違和感はまるで無く、ギアもさまざま使いこなせるようになり、ハンドルはSAにあるキティちゃんポップコーンのあれくらいに感じるのだろう。「出来立てのポップコーンはいかが?」と楽々運転している未来を想像するとワクワクしてくる。
動力源と、その動力を伝えたい場所とを繋ぐ役割を担う装置がクラッチ。エンジンで生んだエネルギーは、どこにも繋がっていないと日の目を見る事無くエンジン内で消費されてしまう。タイヤやプロペラにエネルギーが届く事で初めてエネルギーは有効に活用される。その切り替えをする機構であるクラッチは、現在どんどんと消失しつつあるらしい。
「自動的な」という意味のオートマチックを冠するオートマ車、通称AT車にはクラッチペダルは無い。クラッチが担っていた役割を自動的にやってくれる機構を内蔵しているのが現代のデフォルトである。
教習所終わりに自家用車に乗ると、半クラをミスってガタガタすることも無いし、ローギアでのアクセル踏みすぎで当該ギアに見合わない回転数をだしてエンジンを蒸すことも無いし、クラッチを踏まずブレーキを踏んでエンストを起こす心配も無いしと、めちゃくちゃ楽を感じる。それくらいAT車は便利である事に毎度気付かされる。
ただ、こうしたオートマチックな機構を取り入れている車体は、状況に応じてきちんと対応できているのだろうか、という点が心配になるようになってきた。
坂道でも、ぬかるみでも、渋滞でも、AT車は常に100%で頑張ってくれる。ギアを操作して動かすマニュアル車、通称MT車と比べると、操作する側のやるべき事が少なくて、他のことにリソースを割けるのは素晴らしい事だ。とてもお世話になっているからこそ、ふと感じてしまったのだ。
キミ、全力で走り続けていないかい?と。
停止状態から時速60キロメートルになるまで、アクセルをぐっと踏みっぱなしにすれば一瞬である。そんな芸当がひょひょいと出来てしまうくらい常に全力なAT車。
速度と回転数にあったギアを自ら選定し状況にアジャストしていく技量が試されるのがMT車と言っていいだろう。複雑なのは間違いなくこちらだ。けれども、どこか機体は楽ができているような気もしてしまう。
仕事、勉強、家事、育児、趣味など、我々は生きる上で色々な事に自らのリソースを割いて割いて割きまくっている。
それら全てに全てのタイミングで全力でいられたら、それはきっと理想的な事であるが、どうだろう、機体が負うダメージは想像に難く無い筈だ。
この体のドライバーとして、安全運転に心掛けるのはもちろんの事、体という機体にも優しい運転をした方が長生き出来る気がする。
教習所内では何度エンストしたって問題ない。そこは練習の場所であり、学びを深める為に来ているから。教習所を出た後だってエンストする事もきっとあるだろう。それ自体は何も悪いわけでは無い。その回数、頻度が重要なのだ。
無理をし続けたり、状況に合っていないギアで走ったり、仕組みを理解せずただひたすら頑張る、では負荷がかかり過ぎて長続きしないのはMT車を運転した事が無くたって、うっすら気がつける所だろう。しかし、これが自分の事となるとついつい忘れがちになったり、自分なら大丈夫だろうと無理をしてしまうものである。
自分の体は全自動で動いてくれる機体なのか、エンジン等に負荷はかかり過ぎていないか、荷台には今何がどのくらいの重さで載っているのか。
今はクラッチペダルとギアレバーをがちゃがちゃするのが大変で億劫かもしれないけれど、人生の教習所タイムでそれらに少しずつ慣れていって、自らの状態を意識する事で、ちょうどいいエネルギー量で生きる事が可能になるかも知れない。
車と人は違うだろう。AT車は全然無理してないのかもしれない。いつも頑張ってくれてありがとう。AT車の名誉の為に言っておこうと思う。
ただ、AT人はいないと思うのだ。無理しないで欲しいものである。
そんな事を思い浮かべながら、待合室でスマホと睨めっこしていたら今日も3000字書いてしまった。
もっとコンパクトに省エネで生きようと思う。
【今月のTouch the Heartstrings】

川島如恵留(かわしま・のえる)
1994年11月22日東京都出身。小学生1年からジャズダンスを始めた後、芸能活動をスタートし子役としても舞台にも出演。その後、2007年10月よりアイドル活動を開始。2012年7月にTravis Japanの結成メンバーに。2022年10月に全世界メジャーデビュー。2024年11月22日に初の著書となる『アイドルのフィルター』を出版。2017年青山学院大学卒業。2019年・宅地建物取引士、2023年・国内旅行業務取扱管理者、2024年・総合旅行業務取扱管理者、2026年・第二種電気工事士の資格、一級小型船舶士操縦免許、特殊小型船舶士操縦免許を取得。2026年1月からJAPAN MENSA会員に。2024年4月から個人のYouTubeチャンネル「のえるの隙間時間」、同名のXも開設。
YouTube @noelnosukimajikan

