令和の清少納言を目指すべく、独り言のようなエッセイを脚本家・生方美久さんがお届け。生方さんが紡ぐ文章のあたたかさに酔いしれて。【脚本家・生方美久のぽかぽかひとりごと】
人生の脚本が上出来

次回作の本打ち中、ここはセリフでの説明じゃなくて回想シーンにしましょうかーみたいな議論になった。たしかに回想のほうがいいと思えたので了承し、メモをとっていたら無意識に口が動いた。
「回想シーンで見せちゃえば、視聴者にとって事実になりますしねー」
視聴者にとって事実になる。その通りなんだけど、自分で言っててなんだかちょっとびっくりした。自分がつくってるもの(脚本)って、惑わせたり(ミスリード)、匂わせたり(伏線)、期待させたり(クリフハンガー)するくせに、回想シーンで簡単に「これが事実でっせ!」ってできちゃうんだな………と実感した。でもフィクションだから、ぜーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんぶ、嘘♡
『嘘が嘘で嘘は嘘だ』、地上波放送も終了しました。ご視聴ありがとうございました。たのしかったですね。つくるのもたのしいドラマでした。放送が終わったので、プチ裏話でもしてみようと思います。ちょっとしたネタバレになるかもなので、これから観るよー、FODにお金落とせるよーって人はご注意ください!
最終回だった第4話。4人が居酒屋・法螺吹きに集まってきた経緯が明かされました。その中で、塩野瑛久さん演じるイケメン結婚詐欺師・中村が美容整形のダウンタイム中に居酒屋にこっそり訪れているシーンが回想で描かれました。回想、そう、それは事実。イケメンになる過程、そしてリコピンの「ダウンタイム中です」のナレーション、最高でしたね。
実はこのシーン、初稿を書いたときは気付かなかったのですが、本打ちの際に時系列がおかしいことにプロデューサーと監督が気付いてくれました。改めて時系列を整理してみたところ、この「ダウンタイム中です」のシーンが描けないことが発覚。ストーリーに矛盾が生じてしまうので、「仕方ないですね……ダウンタイム中、カットします……」と諦めかけたそのとき、プロデューサーと監督が全力に止めに入ってくれたのです。
ダウンタイム中、やりましょう—————。
我々は無性に中村のダウンタイム中が気に入っています。だいすきで、大切です。人間の頭脳が発達したのはどうしてだと思いますか? 大切なものを守るためです。お二人が高学歴なので、ごめんなさいね群馬大学で……という気持ちになります。でもこういうときに大事なのは学歴じゃあない。強い気持ち・強い愛です。このシーンを死守するために物語の設定から見直すことにしました。我々3人で知恵を持ち寄った結果、
ハッッ! ここに! ここなら! ダウンタイム中、入れ込めます……!!!
という突破口を発見。無事、ダウンタイム中を描くことができたのです。何をがんばってんだ? という本打ちでした。とてもたのしかった。作品の感想もうれしいものばかり届くのでびっくりしてます。嘘嘘、たのしかったです! ありがとうございました! 良き創作現場でした!
……………良いことのあとには、良くないことが起こる。
ここ最近。まさに嘘嘘の放送が終わったあたりから。わたしが何をしたというんですか!? と叫びたくなるような‟良くないこと”に次々と襲われた。〈不可抗力の極み〉みたいな事件から、〈度が過ぎた運命の悪戯〉みたいな理不尽まで。大小さまざまなことに振り回される日々だった。しんどくなると、くるりの『心のなかの悪魔』を聴きたくなります。しんどさと共にくるりをリピっていたらウォークマンが壊れる(Bluetoothに繋がらなくなっちゃった)という更なる不幸にも見舞われた。
仕方なくスマホで音楽を聴いていたら、生まれて初めてスマホをトイレの中に落とした。小6のときにわがまま言ってガラケーを買ってもらって早20年。で、初めてのケータイ・トイレ・ポチャン。心配性で神経質なので、そう簡単に物を失くしたり壊したりしない性。スマホ画面をバキバキにしたことは一度もなく、床に落としちゃうってことも数えるほどしかない。そんな自分がまさかのスマートフォンinto放尿後便器。完全にこの悪い運気にやられていると思った。
0.2秒で救出して的確な処置をしたのでスマホは元気です。ただ、ケースを外したら挟んでいるステッカーたちがジメェェ~…ってしてた。わたしのおしっこで。このエッセイでお馴染みのART-SCHOOLと、andymori、SuiseiNoboAz、the cabsのステッカー、そしてかわいいかわいいミッフィーさんがお一人挟まれていた。バンドのロゴたちは即座にティッシュでおしっこを吸収し、乾かし、またスマホに挟んだ(汚い)。ミッフィーさんはおしっこにやられてヨレヨレになり、顔が濡れて力が出ない…バタコ新しい顔はよ………状態だったのだが、残念ながらミッフィーの顔が焼けるジャムおじに心当たりがなく、そのまま帰らぬ人(うさぎ)となった。ごめん。わたしのスマホの裏が見えた際には「あ、一回おしっこに浸ったステッカーだ。きったねー」と思ってください。
良くないことが続いている。ひとまず自分の人生を遠目に見つめ直し、じっくり考えてみた。
人生早々の2歳で死にかけたけど、ギリ緊急手術が間に合って生き延びたらしい。中1のときも極度の貧血で死にかけた。持久走大会でビリになったけど、治療して、生き延びて、翌年は3位になった。高校受験に失敗し、行きたくない高校へ進学した。人間関係の構築に失敗したり、人生最大の大失恋をしたりした。孤独な青春期のおかげで幸か不幸か邦楽ロックにのめり込み、ライブハウスに入り浸るようになった。生まれて初めて行ったミニシアターで観たのは『ミッシェル・ガン・エレファト‟THEE MOVIE” –LAST HEAVEN031011』である。のちにそのミニシアターでアルバイトを開始。死ぬ気で勉強して第一志望の大学(ごめんなさいね群馬大学で)へ進学。大変な実習を乗り越えて助産師になったというのに「人間って突然死ぬのだな。やりたいことやらずに死ぬのまじでイヤだな」と思って3年で退職し、映画監督を目指した。なれなかったけど、脚本家になれた。それなりに健康。家族も友達もいる。独身だけど一人をたのしめる性分だし、自由に恋愛をする特権があるのは最高。そしてなにより仕事がある。脚本家の仕事だけで生活できている。何度か死にかけたり死にたくなったりしたけど、なんとか生き延びて、目標を持って生き続け、時々失敗しつつも夢を叶えたりしてる。スマホがおしっこに浸ったくらいどうってことない。あまりにも幸福。わたしの人生、とても脚本の出来が良いのだ。ちゃんと落としてから、上げてくれる。ここには書けないような傷心エピソードもあるので、そのぶんハピエンのフラグが立っている。今後の展開も乞うご期待。
あまりにも幸福だと自覚した途端、立て続けに起きた理不尽を〈人生のスパイス〉とか〈脚本のネタ〉とか思えるようになった。腹は立つし、悲しいし、悔しいけど、おしっこはほっとけば乾く。
過ぎ去った事実はすべて回想シーンにできる。事実だけど、もう過去のこと。なーんだミスリードだったんだ。あれって伏線だったのね。すごいクリフハンガーきた! 来週も生きるのたのしみすぎ! という具合に、次々起こる展開にヒヤヒヤしながら、事実でしかない人生を最終回まで生き抜くしかないのだ。
生方美久(うぶかたみく)
1993年、群馬県出身。大学卒業後、医療機関で助産師、看護師として働きながら、2018年春ごろから独学で脚本を執筆。’23年10月期の連続ドラマ「いちばんすきな花」、’24年7月期の連続ドラマ「海のはじまり」全話脚本を担当。

