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TIMELESSPERSON

2026.01.20

2025→2026の年末年始、脚本家・生方美久に起こったこと。気づけたこと。

令和の清少納言を目指すべく、独り言のようなエッセイを脚本家・生方美久さんがお届け。生方さんが紡ぐ文章のあたたかさに酔いしれて。【脚本家・生方美久のぽかぽかひとりごと】

悲しいと気付けたらそれでいい

銀杏BOYZのジャケットみたいな女の子になりたかった。

新年早々、食欲減退。ぶっ倒れるのは勘弁なので、お家にストックしているポカリをすこし温めたものをちびちび飲みながら、久しぶりにふと思ったのだった。あのジャケ写のかわいい女の子たち。聞こえないけど確実に声もかわいいし、ニコッとしたら八重歯とエクボを見せてくれそう。きっとご飯を美味しそうにたくさん食べる。カルチャーに敏感だけど主張はせず、明るく元気だけどちゃんと空気は読める。そんな女の子。

ああいう子になりたかったなぁ。ああいうツルンとした嫌味のない美少女だったら、人生イージーモードなんだろうなぁ……かわいい女の子たちに大変失礼である。自分も川島小鳥さんに撮影してもらえばちょっとはかわいいのだろうか……失笑。度々こんなことを考えては脳内で勝手に悲しくなっている。

明けました。2026年です。今年もこんな調子で生きづらい性分です。最近『いちばんすきな花』が再放送されたのですが、「脚本家さんがINFJなの納得すぎます」と視聴者の方に言われました。ノリで診断して公表なんてするんじゃなかったと思ってたけど、バレバレなんだな。

年末、ほにゃらら納めという言葉をよく聞きました。年内最後の打ち合わせは12月25日でした。しかも2件ありました。メリクリでした。この仕事のメインは書くことなので、クリスマスを終えても執筆の仕事は続き、結局31日の昼すぎまで書いていました。

映画納めは12月31日の午後、恵比寿ガーデンシネマで『エターナルサンシャイン』を4Kで鑑賞。仕事納めの直後、パソコンや資料が入った重たいデカリュックを背負ったまま仕事場から恵比寿にすっ飛んでいきました。たのしかった。

元日はお仕事しなかった! よく行くシェアオフィスが休業していたからです(そんな理由)。家で仕事ができないタイプ。仕事場は閉まってるし、日帰りで実家帰るのもだるいし、ファーストデーで映画安いし、ということで、元日は映画館を梯子しました。元日から営業してくれてありがとうございます。すべての映画館スタッフに幸あれ。

あっという間に世間で言う正月休みも終わり、打ち合わせも再開。年末年始に予定が入らなかったぶん、毎日のように何かしらの打ち合わせがある日々が始まりました。待機作が諸々ありますので、お待ちください。今年は連ドラもあります。映画もいくつか控えてます。公開は来年以降になりそうですが、今年がいろいろと勝負になりそうです。がんばります。

仕事がバタバタしていたら、プライベートも調子が狂ったのか、新年早々盛大にやらかした。関係各所の皆様、大変ご迷惑をおかけしました。「すみません」と「ごめんなさい」を言い過ぎた。100%こっちが悪いのに「謝らないでください」と言わせたりした。人生、おもしろくて超ハードモード。もうやらかさないようにしたいけど、新しい感情のストックが生まれたのはとても大きい。「悲しい」の新色発売決定です。こんな色もあったとは。

自分のアイデンティティなんて「脚本を書く人間」でしかないということをまざまざと思い知らされ、一人の人間としてはかなり落ち込んだけど、すきなことを仕事にできて大事な友人たちがいて、これだけ幸せなんだから全部が全部うまくいくわけないよな! と妙にポジティブになったりもした。久しぶりのような、初めてのような、宇多田ヒカルが言ってたのこれ? みたいな感情もあった。なぜかまったく涙は出ず、いつも通りに過ごそうとお気に入りのヘッドホンで爆音のアジカンを聴きながら散歩したら無性に泣けてきた。涙が出る悲しさが、大きな悲しみとも限らない。

脚本が書ける、と思えた。

悲しいことがあったとき「脚本に活かせるかも」と思ってしまうのは、感情を安定させられるという点では良いことだし、当然あとから虚しくもなる。

昨年の夏に祖母が亡くなった。亡くなる数日前に弾丸で帰省して顔を見て話しもできたし、そのとき覚悟してお別れもできた。母から亡くなったと電話をもらったとき、先述したよく行くシェアオフィスで仕事をしていた。亡くなるかも、ではなく亡くなったという連絡だったので、わかった明日帰るね、という感じでわたしも母も落ち着いて話して、電話を切った。そのとき書いていたのはとあるラブストーリーの脚本で、主人公は失恋に大いに悲しんでいたわけだけど、生まれたときから同じ家に住んでいた祖母が亡くなった直後に見たその物語や主人公の感情は、どうしたって薄っぺらく感じた。失恋くらいでなんだよ。人の命に関わらないだろ。家族が元気なんだからいいじゃん。と、自分でつくった物語と登場人物に苛立ち始め、まったく原稿が進まなくなった。

お通夜も葬儀も、親族たちが涙ぐむ姿を見ても、一滴も泣かなかった。ぼんやりとこの感情の活かし方を考えていた。悲しさを紛らわせる手段であり、のちに襲ってくる虚しさと対峙する覚悟が必要だった。

祖母は、わたしもまともに覚えていないドラマの放送開始日や書籍の発売日を明確に覚えている人だった。連ドラが決まると「それまでは元気でいようと思える」と言っていた。連ドラがなかった昨年、逝かせてしまった。

それなのに、いざ別の悲しみにぶち当たったとき、半年ほど前の祖母の死という悲しみと比較して「あのときより悲しくない! 全然大丈夫!」とはならないわけだ。悲しみのベクトルは多種多様で、確実なのは新鮮な悲しみほど威力が強いというだけだった。時間薬の効能もまた、その時々。半年前、失恋くらいでと思えたのは、気付く必要のない幸せだった。優劣も大小もなければ、他者が薄情だの残酷だのとジャッジできるものでもない。そこには悲しいという感情の事実しかない。

12月31日に映画納めをして、1月1日に映画始めをした。そうやってたくさんの物語に触れ、自分の創作にもなんとか活かせないかともがいてはみるものの、リアルな感情にはきっと敵わない。こんなにたくさんの感情を知っても、的確に外へ表出できないのだから。言語化という言葉が流行っているし、「言語化ありがとうございます」と言われることも多々あるが、結局は物語やセリフに感情の切れ端を挟み込み焼きまわしているだけで、言語のみの表現で感情を完全に表現するなんてできないのだと思う。できなくていいのだと思う。これらの悲しみを明確な言葉にできてしまったら、わたしが大切な人や物を様々な形で失うことで得た感情が、薄っぺらくなってしまう。言葉はあくまで言葉。感情は感情のままでいい。どれも言葉にしたら同じ「悲しい」。そのささやかな違いも、傷の癒え方やスピードも、涙が出るかどうかも、自分だけが把握できればそれでいい。

銀杏BOYZのジャケットの女の子たちは、どんなことに対して、どんな色の悲しみを感じるんだろう。ぽかぽかのポカリを飲みながらそんなことまで考え始めてしまった。きっと今年も脚本が書ける。

生方美久(うぶかたみく)
1993年、群馬県出身。大学卒業後、医療機関で助産師、看護師として働きながら、2018年春ごろから独学で脚本を執筆。’23年10月期の連続ドラマ「いちばんすきな花」、’24年7月期の連続ドラマ「海のはじまり」全話脚本を担当。

TEXT=生方美久

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