ストイックに俳優道を極める、妻夫木聡さん、窪田正孝さんのおふたり。その根底にある演じることへの深い愛とは――。
窪田正孝「どうしようもなくまた演じたいと思う」
「愛がないと俳優という仕事はやっていけない。ただの仕事だと思って割り切るには、あまりにしんどいですから」
そう静かに噛み締めるように語る妻夫木聡さん。
「嫌になることもありますよ。祖母が亡くなったとき、ああ、俺ってこうやって泣くんだ、ってどこか自分を観察して、演技に活かそうとしていたり。でも僕にはこれしかないんです。だからそれでいい。そういうふうに思えるのは、やっぱり、俳優という仕事に愛があるからじゃないかな」(妻夫木さん)
映画『ある男』で妻夫木さん演じる弁護士は、窪田正孝さん演じる「ある男」の正体を追い、真相を探る。その男は、名前と過去を偽り別人として生きていた。
窪田さんはこう語る。
「俳優という仕事も、別人の人生を生きる、ということをしています。感情って本来自分だけのものですよね。でもそれを僕らは、監督や観客、誰かのために吐き出している。出し切って、中身がすっからかんになって1日を終え、毎日家に帰るんです。家では仕事が終わったことを喜んでいるのが自分の感情なのかなんなのかも、もうわからない。それが続くと正直きつくなることもあります。それなのに、作品を撮り終わったあとや、いい映画を観たあとなんかは、どうしようもなくまた演じたいと思う。“あっち側”にいたいと思ってしまう。これは…愛なんでしょうね」(窪田さん)
妻夫木聡「僕はやはり常に家族と友人の愛に救われている」
別人として生きる。私たちにはリアルには想像しづらいテーマだが、俳優たちにとっては常につきまとう現実。
「僕は一度『悪人』という作品の撮影が終わった際に、自分に戻ることができなかったという経験があります。家族や友人と触れ合ううちに取り戻すことができましたが、あのときは危ういと感じました。また『怒り』という作品に入る前には、渡辺謙さんに『命をかけなくてもいい』と言っていただき、そのときは『仕事とは命をかけるものでは?』と思ってしまったのですが、心配して言ってくださったんだと今はよくわかります。そして危ういなかでも、僕はやはり常に家族と友人の愛に救われている」(妻夫木さん)
ストイックに仕事をつきつめるおふたり。今作では共演シーンはないものの、お互いへの深いリスペクトが。
「窪田くんの誠実さが、作品を作ってくれた。映画って芸術でもあるけど、エンタテインメントでもある。それを教えてくれました」(妻夫木さん)
「僕が演じた大祐という男を追いかける弁護士。この役はキャリアを重ねられてきた妻夫木さんにしかできないものだと、その背中を見て感じました。ご一緒できて本当に良かったです」(窪田さん)
『ある男』
「亡くなった夫、大祐の身元を調査してほしい」という奇妙な依頼を受けた弁護士の城戸。愛したはずの夫はなぜ、別人として生きていたのか――。平野啓一郎原作のヒューマンミステリー小説を映画化。
原作/平野啓一郎
監督・編集/石川慶
出演/妻夫木聡、安藤サクラ、窪田正孝ほか
配給/松竹
妻夫木聡(つまぶきさとし)
1980年12月13日生まれ、福岡県出身。2001年『ウォーターボーイズ』で映画初主演、以後『東京家族』『愚行録』など数々の作品に出演。2010年『悪人』で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞。
窪田正孝(くぼたまさたか)
1988年8月6日生まれ、神奈川県出身。ドラマ「デスノート」、映画『犬猿』などに出演し、NHK連続テレビ小説「エール」で主演を務める。公開待機作に『湯道』『スイート・マイホーム』がある。