日ごろから“言葉”についてあれこれと思いを巡らせている壇蜜さんの連載『今更言葉で、イマをサラッと』第39回目。言葉選びと言葉遣いが、深く、楽しくなる。そして役に立つお話。どうぞお楽しみください!
その39『騙されたと思って』
見る前に飛べ、という言葉がある。案ずるより産むが易し、という言葉もある。一見投げやりかな?と思わせるが「あれこれ悩むよりトライした方がいい」と背中を押す大切な言葉たちだと感じる。無論ケースバイケース、思案する力も必要だ。しかし、まずはやってみようと手を出した事の方が上手くいく場合だってあるのだ。告白の仕方やムードを気にしているうちに、気になるあの人が誰かさんとドラマチックな出会いをしたり…というのは経験者であるため、見る前に飛んだら良かったなぁと涙ぐんだものだ。悔しいというより、自分のモタツキに腹が立った。
では、自分が「迷っている相手を説得するケース」になったらどんな言葉を使おうか。やはりここは「騙されたと思って」を枕詞にしたい。騙されたと思って食べてみて欲しい、騙されたと思って行ってきなよ、騙されたと思って誘いに乗ってみたらいいじゃない…などなど、やや無責任な雰囲気は否めないが、「過度な心配や期待をせずに、とりあえずどうかしら」というリラックス効果をもたらしてくれるだろう。これまた個人差ありの経験者のコメントとして聞いていただけたらありがたいのだが、騙されたと思って…と話をして「騙されたわ!」と文句を言ってくる相手はまずいない。この言葉には最初から評価のハードルを低くする効果もあるため、たとえ感じていても全然美味しくない、ちっとも楽しくない的な評価をするのも野暮かなと思わせてくれるのだ。
騙されたと思って、の言葉に更に押しをプラスしたいなら、「話のネタに」を使うのもいい。我が国では話のネタに困っている「ネタ難民」は多い。感想はどうあれ、写真、動画、録音などして誰かに広げるネットワークを生きがいにする者はたくさんいる。記録を見てもらう事に意義を見いだす人々なら、話のネタに、と言われたらウズウズしてしまうだろう。「騙されたと思って、話のネタに~」とのコンボを上手く使い、自分は自分で有限な時間を有意義に過ごして欲しい。意外と相手に時間を使わせる言葉だったりもする。
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