日ごろから“言葉”についてあれこれと思いを巡らせている壇蜜さんの連載『今更言葉で、イマをサラッと』第25回目。言葉選びと言葉遣いが、深く、楽しくなる。そして役に立つお話。どうぞお楽しみください!
その25 『 おかしい 』
子供の頃、「それはおかしいことなんだよ」「おかしな言い方はやめなさい」と教育的指導を受けたことがある。親からも教師からも、「おかしい」というのはみっともなく異常であることの表現であるということを教え込まれた気がする。詳しい説明はなかったが、「おかしい」を叱責のたびに使われたら子供も気づくものだ。「あ。おかしいってマイナスの意味なんだ・・・」と。
その後思春期付近になると「やだ、おっかしー」という相づちを知るようになる。 ここでのおかしいは「可笑しい」という漢字表記が似つかわしき「滑稽な、面白い」というややプラスの意味と認識していく。冗談や面白い話に対して「自分も笑える内容として捉えてますよ」というときに使った。こうして、義務教育が終わる頃には「おかしい」の使い方を熟知していくのだった。
そして「おかしい」との付き合いは成人期を迎える。成人期になると、今度は「変わった」という言葉を類似語として習得し、使い始める。変わった・・・は、おかしいよりも柔らかで人を傷つけにくいが、明らかに異常事態であることは伝わる隠語のような存在だと知るのだ。
「おかしい人」「おかしな味」「おかしい仕事内容」などなどと遭遇したとする。ため息が出るようなネガティブ事案でも他言すれば自分にとってマイナスである・・・という事態でも他者に連絡事項として伝えなくてはいけない場合、おかしいを「変わった」にすれば途端に自分の立場は守られるような安心感を覚えるのだ。付き合いたくないような人とは言ってない。ただちょっと普通の感じとは違うなーって思ったんです・・・というニュアンスで伝わる。積極的に嫌ってはいないという立場をハッキリさせることが大事な場合に是非使って欲しいと思う。
最近では、例えば「どんな人?」と聞いて「変わった人かも」という答えが来た場合、答えた者に対して敬意を覚えるようになった。「悪口は言いたくないけど、変わった人・・・つまりは要注意人物だよ」という裏の意味を共通化したような気持ちになるからだ。