日ごろから“言葉”についてあれこれと思いを巡らせている壇蜜さんの連載『今更言葉で、イマをサラッと』第15回目。言葉選びと言葉遣いが、深く、楽しくなる。そして役に立つお話。どうぞお楽しみください!
その15『難しい』
「難しいですね」というのは「高確率で成し遂げられない、というか遂行や実現が無理である」をやわらかく表現したような言葉だと思っていた。多くの方々もそう思っているかのように発したり受け入れたりしている様子なので、あまり疑うことはなかった。なかったのだ。マネージャーとも「この原稿今日中に書き上げられる?」「今日中は難しいです。明日まででしたら」というやり取りだってした記憶がある。
しかし、ある時こんな会話を耳にした。知人が上司から「難しいってさ、困難ってことでしょ? だったら無理したり頑張ってみるとかで何とかならない?」と言われたというのだ。何という乱暴な解釈だろうかとその時は驚いたが、その上司のように「難しい」を「無理」の婉曲ではなく力の出し渋りとして解釈する者が出てくる可能性もこの先あるかもしれない・・・と一概に上司の理解力のミスとも言い切れなく感じてきた。はっぱをかけて頑張らせるつもりか、言葉のあやを利用して自分の要求を突き通そうとしているのかは不明だが。知人は果敢にも「私だけでは出来ません」と応援を要請したそうだ。一応その件は収まったそうだが、世の中に広く知られていると思っていた「難しい=無理の可能性大」説が時に怠慢という疑惑をかけられる場合もあるので、皆様も気をつけていただきたい。
「頑張れば?」「やってみなきゃ分からないじゃん?」と言われたらどうすべきか。最近の私はその最善の対処法は何かを考えてばかりだ。現在思案中でもあるし、相手との関係性も加味しなくてはいけない・・・シビアな問題だろう。今のところ難しいの垣根を越えさせようという言葉には「私の力を評価してくださりありがとうございます」でいったん距離を作り、「しかし、私には助けが必要なんです」などの応えたいけど一人では出来ない理由を分析しながら相手に詳しく伝える「考えていない訳ではない」作戦で応戦してはどうだろうか。パッションで畳み掛ける相手には冷静な態度で敬語&距離取りでいどみたい。同じ土俵に上がってしまうのは「難しい」の解釈を守れないだろうから。