日ごろから“言葉”についてあれこれと思いを巡らせている壇蜜さんの連載『今更言葉で、イマをサラッと』第10回目。言葉選びと言葉遣いが、深く、楽しくなる。そして役に立つお話。どうぞお楽しみください!
その10『私的には』
「私的には、いいと思うんですがね」。これは、「私的には」を目上の人間に対して使う者が、「失礼だ」「不躾だ」と良くない印象を持たれがちな現状について思う意見でもある。先方が「あなた的にはどう思う?」「君的にそれは賛成かな?」などと聞いてくるのだから、「的」を使って返すことで何か問題でも?と思ってしまう。まるでトラップのようだ。後輩に「私的には・・・」と答える者がいる可能性も高く、自分自身も使いそうなジンジャー読者世代の賢者の皆様はどうお考えだろうか。
なぜ良くない印象を持たれるのか。「新しめの言葉で、いわゆる『若者言葉』の域を超えないから。対目上の言葉ではなく敬意に欠ける」という意見に落ち着くようだ。ウェブ上であれこれ調べた結果でしかないが。時間をかければ失礼ではなくなる日がいつかは来るのだろうか。それまで私は生きていられるか心配だが。
いつかはまだ来ない。では、私的にはトラップをかわす武器を持っていなくてはいけないだろう。「私的には」と言い返しそうになったら、ぐっとこらえて間を作り「私の意見としましては・・・」「私としては・・・」「うーん・・・そうですね・・・私は~と思います」などの「すこし悩んでいましたが、あなたのために勇気を出してお答えします」の姿勢を見せて控えめさを演出、スパッと言っていないように見せて意見は言う戦略でのぞむのは如何だろうか。自信がある答えでも意見でも、聞かれてすぐ待ってましたとばかりに応じるのは、相手が面食らって、聞き流される可能性もある。「私的には」から始めると意見までもが「失礼だ」にくるまれてしまうのは損だ。
「悩んだ顔をしながら強い意見」・・・この武器を手に、 トラップやとばっちりのような評価下落を封じてほしい。涼しい顔で「そうですね・・・」ではなく、「そ、う、で、すね・・・」と眉間にシワをチョイと寄せ、後は真っ直ぐ向き直って「~かと思います」「~でしょうか」「~ですね」などでしめる。私的には、これでしのいで欲しいものだ。