小説から漫画までジャンルを問わず、本好きとして知られる女優の多部未華子さん。読者からの本選びの相談や質問に応えて、オススメ本をご紹介します。
vol.04 やる気が出る“いい言葉”に出合いたい
《読者からのリクエスト》
新年度のスタートで、オフィスにはまた新人が入ってきて、今年は指導先輩の役目を担う予定です。私もそういう年齢か(ちなみに31歳です)・・・と複雑。後輩の指導よりも自身の仕事を頑張らねばという焦りも強く、教えるのが苦手だし何だか面倒だなぁと憂鬱。どうも最近、やる気が低下しています。そんな自分に活を入れるような言葉を知りたいです。
《多部さんのオススメは・・・》
勝利の形はそれぞれ。その経験を、
人生でどう生かしていくかが大切
“無意味なのも悪くない” “生きるうえでの勝利の形など、どこにも明確に用意されていないのと同じように。”--私の心に響いた一文です。
『風が強く吹いている』は、ある出来事をきっかけに清瀬灰二と出会い、竹青荘というボロアパートに住むことになった蔵原走が、癖のあるアパートの住人と一緒に箱根駅伝を目指す物語です。箱根駅伝にあまり詳しくない私でも心に刺さる言葉がたくさんちりばめられていて、終盤は一緒に走り、仲間のひとりになったような、そんな感覚にさえなる作品でした。
私は学生時代、部活やクラブに所属していなかったので、団結力・・・というかチームワークとか仲間意識とか、そういうこととは縁遠く生きてきていて・・・。なので性格も見た目も生い立ちもまったく違う竹青荘の住人同士が、情熱を燃やしながら、同じ目標に向かって支えあったり、励ましあったり、尊重しあったり、喧嘩したりする姿は大変羨ましいものでした。
特に、チームの最年長で陸上経験者のニコチャンの言葉がすごく心に響きました。
無意味なのも悪くない、ということだ。綺麗事を言うつもりはない。走るからには、やはり勝たなければならないのだ。だが、勝利の形はさまざまだ。なにも、参加者のなかで一番いいタイムを出すことばかりが勝ちではない。 生きるうえでの勝利の形など、どこにも明確に用意されていないのと同じように。
採点や順位で勝ち負けが明確に決まり、順位をつけられてしまうのがスポーツ競技ですが、人生の経験値において大事なことは勝敗だけではない、勝利の形はそれぞれだということを語っていて、すごく感慨深い言葉だなぁと思いました。スポーツ選手ともなれば、やはり勝ち負けが大事なのかもしれません。でも、勝っても負けても、その瞬間が自分にとって無意味なことだったとしても、長い人生の中で、そこで経験したことを今後どう生かして生きていくのか、ということがすごく大切な気もします。
勝ち負けの価値観を自分なりに解釈して、納得して、厚みのある経験値のひとつにするということは素晴らしいことだと思いました。
十人十色の個性をひとつにして、ゴールを目指す姿はとてもかっこよく、夢中で読んでしまいました。学生時代にそんな仲間がいたら、かけがえのない財産になるなぁと輝かしく思いながら自身の学生時代を思い返してみて、そんな思い出がまるっきり、ひとつも浮かんでこな自分に愕然とするのでありました。
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