令和の清少納言を目指すべく、独り言のようなエッセイを脚本家・生方美久さんがお届け。生方さんが紡ぐ文章のあたたかさに酔いしれて。【脚本家・生方美久のぽかぽかひとりごと】
みんなが幸せでありますよーに

幸せであることの何がいいって、他者の幸せを喜べるってことだ。
こういう仕事をしていると、突然知らない人から攻撃的なメッセージが送られてくることがある。以前はすべて真に受けてしまって、脚本家辞めろって言われたから辞めなきゃ……とクッション目掛けてスマホをぶん投げるくらい精神がグラグラの時期もあった。
最近はだいぶ落ち着いた。しっかり傷つくけど、ごめんなさい辞めません! と思いながらスマホをそっと机の上に置ける。
内向的でネガティブ。頭の中では常に様々な言葉が飛び交い、不安を煽ってくる。他人の評価が怖く、他者との交流が苦手。なかなか心を開けないし、いざ心を開いた相手には甘えすぎてしまい、反省と後悔。毎晩ひとり反省会をして、「わたしの性格が悪いから」「わたしの才能がないから」といった結論を導き出してしまう。「生きにくそう」と言われたことが何度もある。「考えすぎだよ」「気にしなくていいよ」という、この類の人間に言っても無駄な慰めの言葉を、ことあるごとにいただく。はいはいはいINFJですって! みんなそろそろ飽きなよ!(最近もまた聞かれた)。分類の話がしたいんじゃない!
ところがどっこい。そんなINFJとやらの性格がちょっと変わってきたようで、最近は考えすぎるのをやめたり、気にしないでやり過ごすことができるようになったのである。これといった明確な理由があるわけでなく、小さな心持ちの変化を積み重ねた結果に思える。
仕事とプライベートの時間のバランス、仕事相手との距離感、身体と心の労わり方、頑張りたいことを自分で決める、諦めることも自分で決める。この1~2年くらいでそれらが上手になった。コツを掴んだという感じに近い。英会話の習得の仕方でいえば、机に向かって参考書で勉強したのではなく、英語を話す友人ができて楽しくおしゃべりしてたらいつの間に、って感じ。
いいことだ。いいことなんだけど、ちょっとばかり不安にもなる。辞めろと言われたからといって辞めなくていい。そんな当たり前のことに気付けたのは、精神的に成長したということなのか、それとも感情が鈍麻したということなのか。この考えすぎで繊細な性格ゆえに物語が紡げていたのでは? 負う傷が減って、感情の起伏が穏やかになり、幸せになった自分でも、ちゃんと脚本が書けるだろうか?
結論:書けますッ
心持ちの変化と、執筆のクオリティやペース。なんら関係せず!!!!!
同業者の友人と「クリエイターなる者、不幸であるべき……みたいなのマジ嘘だよねぇ。幸せに越したことない! 幸せでも書けるのがプロ!!!」という会話をした。正直ずーっとどこかで思っていたのだ。ちょっと不幸というか、満たされていなくて、社会に不満があって、政治に嚙みつけて、孤独を愛している方が、クリエイターとして優秀であるような気が。
んなわけない。きっとあの錯覚は【クリエイター×不幸】である自分を正当化したかっただけ。【物書き×繊細】なのをちょっとおしゃれな気がしてただけ。全然ださいよ、昔のわたし。
お笑い芸人さんが結婚を発表すると、その後「結婚してからつまらなくなった」と言い出すファン(ファン?)の人が必ずと言っていいほど出てくる。その度、仮に結婚を発表してなくても、最近つまらなくなったって言ったのかな……絶対言ってないよな……………と思ってしまう。結婚するとつまらなくなるという通説を愛しすぎている。
そもそも、結婚したってことは幸せ! 幸せな人間はつまらない! の思考回路が大変おもしろいと思ってしまった。
精神が安定してきてから、自分の書くものがつまらなくなったかはわからない。この1~2年くらいでじわじわと今の状態になったわけで、その間にもいくつも作品を執筆しているし、しかも執筆と作品が世に出るタイミングの時差はモノによって様々。このドラマから精神安定してます!って線引きもできない。
結婚した芸人さんだってそうだろう。結婚前の、パートナーと付き合ったり同棲したりというすでに幸せだったであろう時期。前出のファン(ファン?)は何も知らずに「やっぱおもしろいなー!」と言っていたはずだ。それともなんだ! 恋人がいる芸人はおもしろくあれるっていうのか!? 結婚がダメなのか!? 婚姻届の受理のタイミングで才能や能力が制限されてたまるかよ。
数年前、まだ精神がグラグラなわたしの元に、法的処置をとったら圧勝できるようなメッセージが届いた。会ったこともない顔も知らない人(何故か名乗ってきたので名前はわかる。偽名かもしれないけど)から送られてきたただの文字列に、当時のよわよわメンタルはズタズタにやられてしまい、すぐには人に相談することもできなかった。
少したってから、仕事仲間兼友人に打ち明けると、静かに悲しみと怒りに寄り添ってくれた。そして友人が導き出した答えは「その人、相当不幸なんだね」だった。
当時はあまりピンとこなかった。むしろ「その人のメンタルが心配。メンクリ行ったほうがいい」とか真剣に言ってた。友人は「それこそ一番気にしなくていい」と言ってちょっと笑ってた。今のわたしでもそう言ったと思う。
でも同じことか。不幸で満たされない。メンタルの病。嫉妬。羨ましくて憎たらしい。だから攻撃する。だから攻撃していいと思ってしまう。不幸なわたしに合わせて、幸福な人は傷付くべき。そんな思考もあるのだろう。
薄っすらと自分にも同じ節があったと思える。不幸で不安定のとき、幸せそうな人を何故か敵だと認識してしまうことがあった。インスタで流れてきたおしゃれでかわいく金持ちそうな女の子に、何故かイラッとしていた。今は、努力してそうなったのね~なんて思えてしまう。(これは自分が歳を重ねただけのような気もするが)
幸せになるのはいいことだ。人の幸せも願えるし、喜べるから。願い事を一つ叶えてあげようッ!と魔人やら死神やらと対面した際は「みんなを幸せにして!」とお願いするのがおすすめ。不幸な人がいなくなれば、他者に攻撃する人もいなくなるから。
新ドラマの初回放送日の朝、近くの神社にお参りに行った。お賽銭を入れて、二礼二拍手して、手を合わせた状態になってから、
あれ、何をどうお願いしたらいいんだ…? ヒット祈願? ヒットしますようにって神様に言うの? ヒットの基準を伝えたほうがいいかな、視聴率とか、再生回数とか……
などとぐるぐる悩んでしまい、結果的に「ドラマに携わった人が、誰一人いやな思いをしませんよーに!」とお願いした。上手いところを突けた気がする。みんな幸せに、最終回まで駆け抜けられますよーに。さーて! ついに来週、Tシャツは乾くのか!?!?!?
生方美久(うぶかたみく)
1993年、群馬県出身。大学卒業後、医療機関で助産師、看護師として働きながら、2018年春ごろから独学で脚本を執筆。’23年10月期の連続ドラマ「いちばんすきな花」、’24年7月期の連続ドラマ「海のはじまり」全話脚本を担当。そして現在、TBS金曜ドラマ『Tシャツが乾くまで』が放映中。

