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LIVING仕事

2024.09.10

ロックに夢中だった女子高生がDJになるまで。ラジオで“音楽を伝える”仕事へ

毎日のようにラジオから流れてくる、耳に心地よく、洗練された美しい声。その主は、ラジオDJとして活躍する池田なみ子さん。顔が見えないラジオというメディアをとおして、多くの人の心を掴む仕事。その知られざる舞台裏を垣間見れる、池田さんのお仕事エッセイがスタート。【シリーズ/お仕事エッセイ

はじめの第一歩

池田なみ子のお仕事エッセイ

はじめまして(の方もいらっしゃると思いますので)、ラジオDJの池田なみ子です。現在は関西のfmcocoloで月曜日から木曜まで週4日、14時からの3時間番組「Wonder Garden」を担当。大阪市内の中心部、南森町の交差点を見下ろせるスタジオから、新旧洋邦、ROCKスピリッツ感じる選曲で季節感ある話題を生放送でお届け中。

池田なみ子のお仕事エッセイ
ミキサー室から見たDJブース。スタッフが見守ってくれている安心感。

今回は、私が“今”の仕事の入り口にたどり着くまでのお話を。

ライブハウスの最前列で飛び跳ねていた高校生が、3年生の夏に出場した朗読コンテストに出場したことが、音楽に寄り添った言葉の仕事、ラジオDJへの道へとつながったのかもしれない——。

私には兄や姉がおらず、音楽的影響を授けてくれたのはお兄ちゃんのいる同級生。70年代のブリティッシュやウエストコーストの熱狂を教えてくれ、休み時間には音楽談義…いえ、どのミュージシャンがカッコいいかの話で盛り上がる。バンドにも興味を持ち始め、当時の大阪で人気だったバーボンハウス、バナナホール、アムホールなどでお気に入りバンドを探す週末。憧れだったのはシーナ&ザロケッツ。自分たちもいつか音楽に携る仕事をして、「誰が1番最初に鮎川家に招かれるか!」なんて他愛もない会話で騒いでいた時代。

高校では放送部に所属していたため、必須で出場エントリーをしなくてはならなかった朗読コンテストがあった。『源氏物語』や高村光太郎の『智恵子抄・レモン哀歌』など課題図書から2分足らずの箇所を抜粋して朗読する、というもの。出場するからには!と練習も一生懸命に取り組んではいたけれど、バンドやROCKに夢中だった17歳の私にとって、心からやりたいことではなかった。

池田なみ子のお仕事エッセイ

…なのに、あろうことかコンテストに全国優勝してしまったことで周囲の空気が一変する。家族、学校、友達の家族までもが将来の展望も含め、いろんな助言をくれ、次々といろんな人を紹介してくれる。

「知り合いのタレント事務所に紹介しようか」「マスコミ就職のアカデミーに通わないか」などなど。結局、高校卒業後は進学して、ホールアナウンスやアシスタントのバイトをしながら、学生としてゆるゆる過ごす日々を続けていた。将来のことなんて決めきれない! まだまだ遊びたい日々を満喫していた。

そんな折、イベントFMのバイトで知り合った方から、FMラジオでDJデビューのお誘いを受ける。“現役女子大生DJ”という触れ込みで、FM大阪にて月曜から金曜まで早朝の帯番組への出演。ROCKが好きなこと、自身でバンドもことんでいたこと、ライブハウスでメジャーデビュー前のバンドなどを観ていた事などで抜擢して下さった。と聞けば断る理由はない!

スタッフもROCK好き。朝の5時からROCK満載の選曲でオンエアする番組『ROCK at FIVE』が始まった。

素人女子大生、奮闘の日々

池田なみ子のお仕事エッセイ
DJデビュー当時の宣材写真。

早朝と言うより深夜、2時半に自宅までタクシーが迎えに来てくれ3時にスタジオ入り。本番2時間前でも準備も気持ちも整わないド新人。トークや放送の技術もなく、すべてがゼロからのスタートだった。当時のスタッフは、番組の編成だけでなく私の育て方にも骨を折られたことだろう。

番組のなかに、前日に留守番電話に予約を受けて、翌朝のオンエア中に私が直接モーニングコールをするというコーナーがあった。友達にもしたことのない“モーニングコール”を、顔を見たこともないリスナーの人たちにしている不思議。けれどこのコーナーがあることで、誰かに自分の声が届いている、オンエアを通じて私を知って下さっている人がいるという具体的な実感が湧く。となると私自身のトークも変化していく。

スタッフはそこまで考えて番組編成をしてくれていたのだ。教えるというより導くという方法で育てられたような気がする。

池田なみ子のお仕事エッセイ
レコードジャケットをバックにスタッフが撮ってくれた1枚。後にこの写真でパズルを作り番組プレゼントしたりも(なんて恥ずかしい…)。

制作チームは音楽評論家やフリーの放送作家、リミキサーやバンドマン、イベントの仕掛け人などアンチ組織、反骨精神に溢れた人、頑固だったり、チャラチャラしてたり、不要な我慢はしない人の寄せ集め。個性が激しく強いチームだった。強い個性と高い意識を持ったチームにポンと放り込まれた素人かつ若造は、厳しくも温かく育てられた。 

厳しく…は今の時勢なら完全にアウトなことも多いパワーの使い方や、不適切な言葉使いのオンパレード。髪型を変えただけで執拗に揶揄われる。朝、スタジオに行ったら誰もいないドッキリ。エイプリルフールもしっかり騙される。——とても書き上げられない(笑)。良いようにいうならば妹のように扱ってもらえていたのだろう。『ふんっ!』とは思っていたが、泣いたり辛かったりはなかった。

温かく…は番組に集中できるよう、局の体制や業界の仕組みなど外的な要因と関わることのなきよう守ってくれた。自分のラジオに対する観念が出来上がる前にいろんな人の意見に惑わされなくて済んだのは幸せだった。

池田なみ子のお仕事エッセイ
ミキサー室とブースが一緒だったスタジオ。

生まれたばかりのひなが最初に目にしたものを親と思うように、このチームだけを信じ戸惑うことなくラジオ道の入り口を知ることができた。もちろんその後に知り合う人とのやり取りで多少の苦労はあったけれど、良くも悪くもこのときに私の今を作る基礎の概念がつくられたと思っている。

個性が強いチームのなかで伸び伸びと毎日を過ごし3年の月日が経つころ、別のチームから番組出演の依頼が来た。早朝5時から7時までの番組から、聞いている人が多い夕方枠へのお誘いだった。大変に喜ばしいことで断る人などいないだろう案件。駆け出しの私に取っては、階段の一足飛びどころかエレベーターに乗るような話。だけど兄たちのようなスタッフ間で甘やかされた私に務まるはずがない…とスタッフと共に考え悩み、諭されてお断りすることにした。

断る理由は経験値の低さと…海外留学にしようというところまでのシナリオを考え…さぁどこに行く? 私はまた、次なる流れにのることになる。

初回という事で少し長くなってしまいましたが、これが私の初めの第一歩。次回は海外逃亡? 現実逃避のお話を。

池田なみ子

池田なみ子(いけだなみこ)

大阪生まれ東京在住。東西の感覚の違いを肌で感じながらラジオDJ、ナレーター、イベントMCなどで東奔西走。好きなものはROCKスピリットを感じる物。和装や茶道の所作、器など日本の美しい物。フレンチブルドック。ヒールの高い靴。
Instagram @nami.7369
X @namirock1017
 

TEXT=池田なみ子

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