ニューノーマル時代の今変化しつつある、お金の“掛け所”について、美容ジャーナリストの齋藤薫さんが提言。洗練された人生への鍵とは?
お金持ちすぎるとセンスがくるう
お金持ちになれば、何でも買えて、いくらでもオシャレができる……誰の頭にもよぎること。でもちょっと不思議な現象がある。例えば、玉の輿に乗ったり、自ら事業に成功したり、ともかく大金持ちになったとたん、逆にセンスが失われて野暮ったくなる人が少なくないことである。
1960年代、当時の米国ファーストレディー、ジャクリーン・ケネディは世界中が憧れるファッションリーダーだった。しかしケネディ大統領暗殺で未亡人となると、大富豪オナシスと結婚、桁違いの買い物三昧が話題になり、気がつけばその人から洗練が消えていた。明らかに巨万の富が、ファッションセンスをくるわせたのだ。
超富裕層は装いが異様に派手になる傾向があると言われるが、それも裕福を形にして自分は人とは違うのだということを見せつけようとするから。勢い「このラック、端から端まで頂戴!」みたいな際限のない買い物をするようになると、もうセンスが要らなくなる。値札を見ないで買い物するのは多くの人の夢だが、限られた予算の中での創意工夫こそがセンスを鍛えること、知っておきたい。お金が足りないから「考える」、それが人を洗練させるのだ。
ましてや今、物より心、目に見えないものこそ大切な“風の時代”に入り、むやみに物を所有するより、“未来の自分”への投資の方が、人生を俯瞰するほどに価値があるという考え方にシフトしつつある。旅や観賞、習い事と、物より体験という時代なのだ。ちなみに“推し”への散財は、未来への投資にはなりにくいが、細胞活性を高め人生を濃厚なものにする意味で、ブランド買い以上の精神的充足をもたらし、例外的に出資価値は高まる一方だ。
つまり、掛ける所には掛け、掛けない所には掛けない、というメリハリは時を超えて重要だが、今や物の価値や基準が変わり、掛け所も変化しつつあるのだ。ファッションにおける最大の変化は「安かろう悪かろう」との決めつけがもうできないこと。安価でも上質なものが出てきている時代。それこそ真の一生ものには惜しげもなくお金を使うべきだが、現実には一生ものなどそうそうない。充分着たら捨てていくことを考えると、“安価な上質”も追求すべき。逆にトレンドものも、今年一年しか着られないザ・トレンドど真ん中のものをいち早く見つけて、一年限りで着尽くすこと。長く着ようと思うから中途半端になるのだ。ここははっきり割り切って。
そこでカテゴリーは3種類。たとえばコートやタイムレスでエイジレスな服、超定番のバッグ、ジュエリーなどは大切にするための暗示のためにもブランドにこだわり、お金を充分掛け、短命のトレンドものにはお金を掛けず、それ以外のものは“安価の上質”を丁寧に探す。ここで覚えておくべきは、安価なものと安っぽいものは違うということ。安価でも素材からデザインまで上品な佇まいのものが今はどんどん作られているから、そこをしっかりと見極めるべきなのだ。
いずれにせよ、断捨離が広く行き渡って買い物の極意が変わった。今までは買い揃えて「増やしていく」ものだったが、今は「捨てていく」が鍵。捨てる、売る、と最初から引き算を想定すると、じつは本当に良い買い物ができるはずなのだ。家の中にミイラ化した物を増やさないことが、散らからない暮らしをもたらし、引き出しに余白があることが、今の時代、精神的にも物理的にも高次元な暮らしの肝なのだ。
かくして風の時代の新たなテーマは、上手に捨てて、家の中の空気を浄化する。またモノよりもコト、所有するより体験することで自分の価値を高めていく。それが結果として美しさや洗練の源となること、忘れないでいて欲しい。
齋藤薫(さいとうかおる)
女性誌編集者を経て美容ジャーナリストに。美容記事の企画、エッセイの執筆、化粧品の開発・アドバイザー、NPO法人日本ホリスティックビューティ協会理事など幅広く活躍。著書に『大人の女よ! もっと攻めなさい』(集英社インターナショナル)、『“一生美人”力 人生の質が高まる108の気づき』(朝日新聞出版)、『されど“服”で人生は変わる』(講談社)など多数。